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恩返し

10分弱の説得を要して何とか僕は解放してもらえた。

冷静に考えて高校生にもなった弟の帰宅時間に10分ごねるのは常軌を逸してるがもう突っ込む気力もない。


「で、これが買ってきたもの?」

「うん。早速開けてみてよ」


ハロウィンを想起させるようなかぼちゃのロゴが入った箱を興味深そうに見つめる姉さん。

興味が逸れた今がチャンスだと思い、僕はそそくさと二階にある自室へと向かう。


姉さんにまた抱き着かれないようにするためだ。

階段を上がり急いで扉を閉め、念の為鍵まで掛けておく。


僕が買ったものと言うのは最近話題になっていたスイーツ店『ジャックランタン』のフルーツタルト。

以前朝のニュースで特集をやっていた際にテレビを見ていた姉さんが


「美味しそう……デリバリーとかやってないのかな?こういうのって」


と目を輝かせながら食べたそうにしていたので買ってきたんだ。

本人は外出る気全く無いみたいだし……


部屋の椅子に背を掛けて安堵のため息をつく。

タルトを目にした後に彼女が何をしてくるかなんてのは容易に想像が出来る。

むしろ抱擁だけで済むならマシなのかもしれない。


だからこそ部屋に逃げさせてもらったんだ。


そして現在進行形でドアノブの鍵がガチャガチャと音を立てて揺れ始めてい


る。


強行突破を試みるのも想定の内だ。

だからこそ最近になって部屋の鍵を以前より頑丈にした。


「開けて!良太!ただお礼がしたいだけだから!何も変なことしないから!」

少し遅れて感激と懇願の混じった声が向こうから響いてきた。


勿論開けるつもりはない。この状況で開けようと思う人間は果たしているのだろうか。


僕は揺れるドアの先に居る姉さんに向かって語り掛ける。

「お礼なんていいからさ、降りて食べてきなよ」

「いや食べるよ!?けどさ……うん、一緒に食べようよ!」


悪いな姉さん、そのタルトは両親合わせて3人分しか無いんだ。

僕も甘いものは好きな方だけど……最近折鶴さんからの差し入れが激しい為に食傷気味である。



数分もすれば諦めたのか、ドアの向こうは無音になった。

ほっとするがまだ油断はしない。

以前居なくなった振りをして部屋から出た途端不意打ちをされたケースもあったりする。


なのであくまでもここからは出ないようにしておく。

室内でもやれる事は充分あるからね。



「はぁ……どうしてこんな事になったんだろうか」


どうしても何も僕が過度に甘やかしすぎたのが原因なんだけど。

それでも結婚しようなんて言い出すと分かっていたなら初めから厳しく突き放していただろう。

姉さんは義姉弟だからセーフと言うが何一つセーフじゃない。

家でも学校でも求婚が絶えない日常ってなんだ?



しかし感謝するべき点が何個かあるのも事実。

さっきも言った通り僕に様々な作業の手ほどきをしてくれたのは姉さんだ。


それに何でも屋をやる際に姉の名前を使っていいかと聞いた際には

「いいよ~私が万能キャラになるだけならデメリット何にも無いし」

と快く即答してくれた。


何人かにはバレてしまっているが勿論僕の正体を知らない人間の方が学校には多い。


結局僕が気兼ねなく皆を助ける事が出来ているのは姉の存在が大きいんだ。

だからこそ、それに見合った恩返しはしていきたい。


話題のスイーツが食べたいとか、夜食を作ってほしいとか、マッサージとか……

その程度のお願いは幾らでも聞く。



でも……結婚はしない。


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