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褒める

約束の日、僕は妙にソワソワとしながら柱に背を預ける。

右斜めに設置されている時計を見るとまだ集合時間は40分も後だと言う事に気付く。

「何をやってるんだ僕は……」


落ち着きの無さに我ながら呆れる。

遅れるよりはマシだが早すぎてもやることはない。

ただ今日は千佳と一緒に映画を見に行くと言うだけなのに……


動揺の原因は姉さんにある。

『それは立派なデートよ!とにかくちゃんとあの子をエスコートしてあげなさい』


あんな事を言われてしまったら否が応でも意識してしまう。


千佳にとっては今日の出来事なんて暇つぶし程度の認識だろうに。

これじゃまるで僕が自意識過剰な人間みたいになるじゃないか。


しかもエスコートって……一体どうやってやれと。



「良太。お待たせ」


そんな事を考えていると、前方から聞き馴染みのある声が聞こえてくる。

直視しにくい……という思いを抱えながらも僕は顔を上げた。


間抜けに大口を開けて自信なく彼女の名を呼ぶ。


「……千佳?」

「そうだけど…な、何よ。何で疑問形なのよ」



そこに居たのは、爽やかな印象を醸し出す水色のワンピースに身を包んだ千佳。

休日なので当然と言えば当然だが、見慣れた制服姿のイメージが崩れ落ちる。


更にいつも結んでいた髪を下ろしていて、普段とはまるで印象が違って見えた。



反射的に僕の口からは誉め言葉が飛び出ていく。



「ごめんいつもと印象変わってて……凄い似合ってる。綺麗だよ」


『で、さり気なく髪型や服装を褒めてあげるのも忘れない事!そういう気遣い本当に大事だよ?』


同時に耳にタコができる位に聞いたアドバイスの一つを思い出す。

図らずとも姉さんの言う通りに行動してしまった。


でも……今の言葉に嘘は全くとしてない。

純粋に綺麗だと僕は思ったんだ。


千佳は途端に顔を赤くし始める。

「ば、バカじゃないの!?何真顔で……き、綺麗とか……言ってんの?」

「あ…ゴメン!」

言われて気付く。そんなに僕は真剣な表情をしていたのか。


自分の言動を客観視して次々に羞恥心と罪悪感が湧いてくる。

確かに真顔はマズい。百歩譲って軽い空気で言えたなら良かったけど……


少なくとも姉さんが言う通りにさり気なく褒めた訳じゃない。

ありのままの感想をぶつけても、向こうが気分よく受け取ってくれるとは限らないんだ。

ていうか綺麗って褒め方は相手によっては嫌悪されるかもしれない。


どうするべきか。

一先ず頭を下げて不用意な言動を謝罪する。


「つい本音って言うかそのままの感想が出ちゃって……気持ち悪かった?」

「そそそそのままの感想で綺麗って……べべ別に気持ち悪くなんて無いわよ!」


千佳は一呼吸置いてそっと僕の肩に手を置く。

そのままぐいっと勢いよく自分の元まで引っ張って来た。


正に目と鼻の先と言う所まで互いの顔が近づく。

僕はドキッとして身を引こうとするが強く抑えられているので抵抗できない。


視線すら逸らせないまま、向こうの言葉を待つ。


「……むしろ嬉しい。ありがとう」


そう言う千佳の顔はどこかぎこちない様子だが、確かに笑顔だった。


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