一緒に行かない?
まぁ、誰と行くかなんて言っても僕が選べる選択肢はそう多くない。
……現状3人と言った所だろうか。
それぞれ順番に聞いてみるのがいいだろう。
①姉さん
そもそも谷本さんは僕と姉さんに向けてチケットをくれたんだ。
姉妹仲良く見に行くのが自然な道理だとは思う。
ソファにぐでんと寝転がる姉さんを見下ろす。
僕に気付いた途端眠たげな瞼をぱっと開いた。
「?どうしたの良太?」
「いや、姉さんに頼み事っていうか……本当良ければなんだけど」
正直聞く前からどんな返事が返ってくるかは予想が付く。
それでも万が一を期待して誘ってみるとしよう。
「今度僕と一緒に映画の試写会行かない?」
「嫌だぁ。外出たくない」
即答。行かない?と言い終えた瞬間に断られた。
覚悟が出来ていたとはいえさすがにこのスピードは色々胸に来る。
もう少し考えて欲しい所だが、いくら時間をかけても結論は変わらないだろう。
むしろ行きたくない気持ちに拍車がかかるのが目に見えている。
姉さんはやれやれと言った感じに両手を広げる。
「映画とかDVD借りてウチで見ればいいじゃん。それだったら一晩中でも付き合うけど?」
「いやまだ公開してないし……分かったよ。急にごめんね」
無理だと悟った僕は早々に踵を返す。
やっぱり姉さんの引きこもりっぷりは筋金入りの様だ。
いつからだったかな……ここまで外出を拒むようになったのは。
理由すら分からない。もしかしたら殺し屋に狙われてたりするのか?
②折鶴さん
僕の本命は彼女だ。
谷本さんは功労者が姉さんだと思って渡してきたが……実際は違う。
個人的に折鶴さんに対してはきちんとお礼がしたい。
向こうからしても僕との映画鑑賞となったら多分喜んでくれると思う。
そんな感じで諸々の状況や事情が噛み合いすぎてるんだ。
期待を込めながら僕は彼女の番号に電話を掛ける。
「もしもし、良太様ですか?」
「あ、うん!夜分遅くにごめんね。ちょっと折鶴さんに聞きたい事があってさ」
「どうぞ。今日の夕食でも恥ずかしい秘密でも口座番号でも総資産額でも……何でもお答えしますよ?」
「……そんな重い内容じゃないよ?」
休日の予定を聞くだけのつもりだったのに何を言ってるんだ折鶴さんは。
本当に聞いたら口座番号すら教えるつもりなの?だったら猶更聞けないよ。
……まぁ総資産額とかは純粋に興味あるかもしれない。
いや、何を考えてるんだ僕は。
頭を振りかぶって湧いて出た雑念を振り払う。
折鶴さんの何でもは本当に何でもやる。迂闊に口を開いちゃだめだ。
話の軸がぶれない内に今までの経緯を話させてもらおう。
「……という訳なんだけど、もしよかったら一緒にどうかな?」
「……」
突如として折鶴さんは無言になってしまい、僕は驚く。
てっきり姉さんばりの即答で了承されるかと思ってたけど…ひょっとして予定があったのかな?
僕の予想は見事的中してしまっていた。
「申し訳ございません!貴方様からの折角のお誘いを袖にするのは非常に心苦しいのですが……」
「いや急な誘いだし……予定の一つや二つあるよね。ごめん」
「予定と言うか、折鶴家内の決まりがありまして」
「ど、どんな決まりが?」
「偏った恋愛思想を植え付けないようにと、色恋沙汰の創作物を見るのは禁止されているんです」
「……そうなんだ」
力なく相槌を打つ。
折鶴家なら仕方ないのかと思えてる僕も既に感覚が麻痺してる気がする。
本当に……世間一般とは色々価値観が違うんだな。
その後猛烈な勢いで謝ってくる折鶴さんをなだめて、僕はベッドに座り込む。
額からは一筋の汗が流れていた。
予想外だ。まさか折鶴さんにすら断られるとは。
積み上げてきた算段の綻びは心に大きな焦りを与える。
とは言えいくらその事を嘆いても解決しない。
僕が頼れる人間はもう一人しか残っていないんだ。
「正直今朝の一件もあって話しかけにくいんだけど……」
気乗りしないが、とにかく聞いてみるしかないだろう。
覚悟を決めた僕は三人目の人物に電話を掛けるのだった。