目立つのが嫌いな器用な僕
放課後、僕は約束通り預かっていたスマホを彼に返す。
電源ボタンを押した後に正常に画面が付くのを確認すると驚いた様子でこちらを見てきた。
「うわ!マジでデータそのまんまで治ってるわ!スゲェ!」
「配線部分の埃が故障の原因……って姉さんが言ってた。今度からは定期的に掃除しなよ?」
「分かった!お陰で修理代浮いたぜ金本。姉ちゃんにもありがとうって伝えといてな!」
嬉しそうに手を振って教室から去る彼の背を見て微笑む。
良かった。ああやって笑ってくれると僕としてもやりがいを感じられる。
僕の姉さんはこの学校内ではちょっとした有名人。
一言で言うなら何でも屋。裁縫、機械類の修理、料理にシミ抜き……出来ない事を探す方が難しい。
故に校内には何かあったらまずは金本の姉を頼れと言う暗黙の了解がある。
中々に大変だとも思うだろうが……本人は頼られる事に喜びを覚えていた。
だから遠慮せず、何時でも頼ってくれて構わないと言うのだ。
その為僕を通して毎日姉さんへの依頼は絶えない。
と、ここまでが校内に広がる有名な噂。
だがこの話の中には重大な秘密が一つ隠されている。
と言うのも、僕の家族にそんな有能な姉は居ない。
厳密には姉自体は居るんだけど……皆が思ってるような器用で優しい姉じゃないんだな、これが。
じゃあ実際に誰が今までの依頼をこなしていたのかと言うと……
仲介人を務めていたこの僕、金本 良太自身だったんだ。
……何故わざわざ姉がやったなどと嘘をつき続けているのか、理由は簡単。
僕は必要以上に目立ちたくないんだ。
もし最初から自分自身がやっていると告白していた場合どうなるかは分かるだろう?
噂の姉さんの部分がそのまま僕の名前に置き換わるだけ。
校内全体に名前が広まり、否が応でも話題になってしまうというのは正直不本意だ。
昔から人並み以上に起用だった僕は、人並み以上に周囲の視線が苦手だった。
せっかく色々出来る能力を持ってるんだから誰かを助ける事に使いたい。
でも繰り返しているといずれ存在が広まっていき、いつの間にか一番目立ってしまう。
ジレンマを抱えていた僕が高校入学時に思いついた妙案が、姉を隠れ蓑として使うと言うものだ。
お陰でそれ以降1年以上も影を潜めたまま人助けが出来ている。
多少なり仲介人として名は広まってるが、それでも基本的に話題のメインは姉の方。
一般生徒からしたら僕は冴えない陰キャ程度の認識だろう。
そんなこんなで僕は皆を笑顔にしつつ、誰にも正体がバレない理想的なぼっち生活を送れていたのだ。
……彼女達に気付かれる一月前までは。
「ああ良太様……今日も貴方は素晴らしく謙虚でいらっしゃいますのね」
いつの間にか僕のすぐ隣で祈るように両手を組む金髪の美少女。
人形のように美しい目鼻立ちを携えた彼女の顔は赤く染まっていた。
彼女の名前は折鶴 恵美。
園児でも知っている程の有名企業、折鶴財閥の一人娘であり……所謂お嬢様と言う奴だ。
折鶴さんは既に目の前まで来ていると言うのに更にグイグイと肩を近づけてくる。
「お、折鶴さん?ちょっと近くない?」
それがどうしたと言わんばかりに折鶴さんは接近を止めない。
「見返りを求めず善意のみで他者を助ける…私は良太様の理念に強く尊敬を抱いております」
「それはどうも……もう40回は聞いたけど」
「是非私と結婚していただけませんか?既に式場の手配は済んでいますよ」
「いやなんで!?まだ付き合ってすら無いよね!?」
ここからは最近の悩みの話になるんだけど……
さっきも言った通り、この学校には僕の正体を知っている女子が数人居る。
気付かれた経緯はまあおいおい語るとして……問題は彼女たちのその後の対応だ。
今進行形で迫って来てる折鶴さん、どう見ても接し方が普通じゃないだろう?
明らかに僕に対して好意を抱いている。
だが彼女が特別ということはない。他の女子達もほとんどこんな感じ。
僕は目立たずこっそり人助けをして、程よい距離感のまま卒業できればそれでよかったのに……!
「順序など微々たる問題です!大いなる愛の前には!」
「だから愛も何も……ちょっ、近いってば!」
どうして、こんな事になってしまったんだ……!?