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4の前半を書き換えていますので、書き換え後を読んでいない方は、再度お読みください。葉山の性格を見誤っていましたので、ここでお詫びいたします。
飲み会のざわざわした雰囲気の中、やさぐれた木下がはじっこでぽつねんと一人杯を重ねていた。
あー。早く蓼原先生絡みに行ってくれないかなー。
「結婚は妥協よ」
隣に座る立川主任の言葉に、周りの独身女性の同僚が、一斉にブーイングする。だけど、既婚者の一部女性は頷いている。
……妥協してまで結婚ってしなきゃいけないもの、なんだろうか?
そもそも、結婚に興味もないから、どうでもいいんだけどね。
今は! 子犬×美形カップルの行方が楽しみで仕方がない!
「葉山先輩、蓼原先生、木下先輩に絡みにいきませんね」
立川先輩と反対の私の隣の席にグラスを置いたのは、多田だった。
「そうだね。早くリアルBLドラマ始まらないかな、って思ってるんだけど」
「ですね」
多田が大きく頷く。同志よ!
立川主任なんて、蓼原先生が途中で抜けたいって話をした時も、「そうなの」って言っただけで、私が蓼原先生と木下の組み合わせについて熱弁しようとしたら、「それはもういい」って断ち切ったんだよ!
どうして、わかってくれないかなー!
「ところで、葉山先輩は、蓼原先生と木下先輩の出会いって知ってます?」
「いや。知りたいところだけどね。ネタになるし」
「そうですか。葉山先輩をもってして知らないんですね」
むくり、と多田が立ち上がる。
「行ってきます!」
「……よろしく!」
一瞬だけ、蓼原先生と木下の純粋な絡みが見たいだけなのに、女子が入っちゃいかん! と思ったけど、多田の存在が蓼原先生の嫉妬を煽る可能性があることに気づいて、私は多田を見送った。
行け、多田! 蓼原先生の嫉妬心を、煽って煽って煽りまくるんだ!
おーっと、木下とうとう、蓼原先生にツンデレするのをやめたらしい。
木下が蓼原先生を見つめている!
うわー、オイシイ!
あ、多田が木下に話しかけた。
ちょっとタイミングが早いよ! 木下の視線に蓼原先生が気づくまでを見たかったのに!
……いや、これはこれからの物語の進みに必要なイベントだ。文句は言うまい。
数言言葉を交わしたあと、多田が首を横に振る。
うーん。何の話をしてるか、さっぱりわかんないな。
多田に録音させておくんだった!
……私まで行ったら、蓼原先生が木下に近寄らなくなる可能性があるからね!
「先輩まさかの鈍感子犬攻め!?」
叫ぶ多田に、私も俄然張り切る。
何ソレ! 子犬なだけじゃなくて、鈍感って、木下キャラ持ってる!!
「ありありありあり!」
「……葉山さん、なにが、アリなの?」
隣の席の立川主任が訝しそうに私を見ている。
「それがですね!」
私の声が跳ねる。途端に、立川主任の顔が曇る。
「いや、葉山さん、話さなくていいから!」
「いえ! これは言わせてください!」
「言わなくっていいって言ってる!」
「聞いてください!」
「……葉山さん、酒臭い。誰?! 葉山さんにお酒のませたの!? 葉山さんには飲ませるなって言っておいたでしょ!」
「下世話な話じゃありませんよ! 私、あのバイクのグリーンが2つ残像になって……」
聞こえてきた多田の声に、私の意識は多田たちに向かう。
「まさかおまえがそんな残念なやつだと思ってなかったぞ!」
木下が憤慨している声が聞こえた。
……えーっと、蓼原先生との時間が削られるのを怒っているって理解すればOK?
「え? 蓼原先生に見惚れてたら蓼原先生から声かけてきたんですか」
興奮した多田の声が聞こえる。
マジで?!
何々?! そんなドラマチックな話なの!?
……あ、木下、肩落としてる。大切な2人の出会いを人に話してしまったことに、がっかりしてる!?
あー! やだやだやだ!
木下、なんだかんだ言って、蓼原先生への愛が大きいんだから!
私が興奮していると、視界の端で誰かが立ち上がった。
見ると、蓼原先生が、木下たちを視界に入れて歩き出している!
おー! 今からリアルBLドラマが始まる!
見逃しちゃいけない!
……しまった、遠くて声が聞こえない!
「飲んでねーよ!」
木下が精いっぱいの虚勢を張っている。うんうん、わかるよわかるよ。
木下は、鈍感子犬の上に、ツンデレなんだよね!
多田が蓼原先生に何かを言っている。
途端に木下が反応する。
「多田何言ってんだよ! 酔ってないって!」
しばらく何かを言い合っていた3人の膠着した状況が、急に動く。
「おおー!」
私の口から、感嘆の声が漏れだす。
蓼原先生が木下の体の脇を抱えて抱き起こしたから!
何このオイシイシチュエーション! あー。木下をお姫様抱っことかしてくれないかな?!
「木下君、酔ってるわね」
立川主任の言葉に、他の女性メンバーがうんうん頷いている。
え? 皆どうして食いついてくれないの?!
「蓼原先生に、木下君送ってもらいましょ」
またもやみんながうんうん頷いている。
でも、それに異論はない。
私も一緒に頷く。
木下に睨まれたような気がしたけど、きっと気のせいだ。
あー! ニヤニヤが止まらない!
蓼原先生! 今日もありがとうございます!
この御恩は……作品でお返ししますから!
*
週明け、木下がご機嫌で出勤してきた。
……そうか、週末充実してたんだなー。
「おはよ、木下!」
「おはよう……葉山」
返事をした木下の表情が、途端に怪訝なものになる。
「何、ニヤニヤしてるんだよ?」
「え? だって、木下、週末楽しかったんでしょ?」
「え? 楽しかったけど?」
木下の眉が、更に寄る。
「蓼原先生と、楽しんだんでしょ?」
私の言葉に、木下がハッとする。
「違う!」
「違わねーだろ」
否定したのは、蓼原先生だ。おお、やっぱり!?
「いや、確かにツーリングは楽しみましたよ! でも、葉山のこれは絶対誤解です!」
木下が蓼原先生に吠えている。
「ツーリングも、楽しんだんですね!」
私は訳知り顔でうなずいた。
「ツーリングを、楽しんだんだよ!」
「ツーリングも、楽しかったな」
「蓼原先生! 何でそんな風に言うんですか!」
「え? それは、決まってるだろ」
蓼原先生はニヤリと笑う。
……やっぱり、蓼原先生も、木下からかうの楽しんでるよねー。
いいよ! 私も乗るよ!
「良かったね、木下!」
「良くねーよ!」
あー。リアルな組み合わせがいるから、私の創作意欲が止まらなくて困る!
週末、プロット書いてたら、筆が止まらなくて夜更かししちゃったもん!
木下、蓼原先生、このお御恩は、作品でお返ししますね!