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「葉山ちゃんご機嫌じゃない? 何かいいことあった?」

 

 ロッカーで着替えていると、二つ隣のロッカーの村井さんが声をかけてきた。村井さんはナースさん。白衣の天使って言葉がぴったりな、純粋な人。


「あ、わかります?」

「わかるもわからないも、だって、葉山ちゃんが鼻歌歌ってるとか珍しいし」


 あ、気が付かないうちに鼻歌歌ってたのか。

 でも、ご機嫌になるのも、当然だ。


「だって、子犬×美形っておいしくありません?!」


 村井さんが、苦笑する。


「えーっと、何のことかわからないけど、きっと葉山ちゃんにはおいしいんだろうね」


 そして、村井さんは私が腐女子な発言をしてもなお、冷たくない! 苦笑はしてても、冷ややかな視線を私にくれることはない人だ。そこも、天使だと思うんだけど。


「そうなんですよー。子犬×美形! ものすごく美味しいんです!」


 私の作品も、きっと動き出すはずだ。


「あ、美形って言えば……、放射線科の新しいドクター、美形だって噂聞いたんだけど」

「あ、それ私も聞いた! 本当に美形? イケメンなの?!」


 食いつく感じではなく、何の気ない世間話って感じで村井さんが口にすると、その隣にいたナースさん(名前は忘れた)が食いついてきた。


「ああ、その美形が、ネコなんですよ」


 私がうんうん頷くと、村井さんはきょとんとして、もう一人のナースさんが、え、と顔を曇らせた。

 

「ネコって? えーっと、ドクターだったよね? 猫、じゃないよね?」

「そ、そうだよ! 美形が……そんなことあり得るわけないし!」


 困惑した二人に、私は首をひねる。


「ドクターだったって、美形だったって、ネコってことはあり得ますよね?」


 スパダリがネコとか、逆に萌えてきたんだけど!


「え? 猫のお医者さん?」

「えー!? そんなのナシでしょ! 折角美形が来たって聞いて喜んでたのに! 嘘でしょー。嘘だよね?」

「ネコのお医者さんで間違いないです」


 私の脳内では、すでに活躍中です!

 私が断言すると、村井さんはきょとんとしたまま、もう一人のナースさんは愕然とした表情でブツブツ何かを呟いていた。


 腐女子ではない人とのBLに関する会話はかみ合わないことも多いけど、今日は一段とかみ合ってない気がする。

 だって、村井さんがきょとんとしている理由がわからないし、もう一人のナースが衝撃を受けてる理由もわからない。

 子犬×美形はもう既定路線なのにね。不思議。


 *


「あ、こわっ」


 私はハンドルをギュッと握ったまま、メットの内側でブツブツと呟く。

 あとから来た車が、私のマシンの隣にギリギリに止まったからだ。

 昨日はこんなに車に接近することもなくて、余裕だなって思ってたのに。

 何しろ、今の今までペーパードライバーで、昨日試運転として走ったとは言え、通勤時間帯の混んだ道路を走るのは、初めてなんだから。

 昨日、HondaのCBR250RRが納車された。


 あの二人がライムグリーンでツーリングに行った日、その足で契約してきたマシンだ。

 

 だって、バイクの静止画ならいくらでも描ける気がしたけど、実際に乗ってるシーンが、描けそうな気がしなかったから!

 それに、ようやく彼が好きだったHondaのトリコロールに、乗ってみようと思えたから。

 彼に影響されて取った中型二輪の免許を、ようやく活用する気持ちになったんだけど……。

 バイクの運転ってこんなに大変だったっけ。渋滞する道路の上では、初心者など無力なものだ。

 昨日は颯爽と走れていた気分だったのに、今日の私には颯爽という言葉は当てはまりそうにもなかった。


 ようやく病院が見えてきてホッとする。

 ハンドルを握る手に力を入れ過ぎて、肩がガチガチだ。

 駐輪場に入るために曲がると、丁度駐輪場にマシンを止めた蓼原先生が見えた。あのゴツイNinjaだ。

 蓼原先生はマシンから降りると、職員用の通路に向かっていた。その横に、バイクを止める。


「おはようございます」


 ニヤリと笑ってみせると、蓼原先生が驚愕した顔になる。

 おー。蓼原先生をびっくりさせるとか、貴重かも! いつも飄々としてる感じなのに!

 

「……お前、免許持ってたのか」


 驚いた表情のまま、蓼原先生が声を絞り出した。よほど驚いているらしい。


「ええ。実は大分前に取ってたんですよ! そして、これ! どうですか?!」


 私がエッヘンと胸を張ると、蓼原先生は上から下まで冷めた目で見下ろした。何その冷たい目。失礼だわー。


「初心者マークつけた方が良いんじゃないか」

 

 ……初心者マーク。それは否定できないけど。

 でもさ、他に言うことない?!

 同じバイク乗りとしてさー。


「え?! 先生、これを見て言うことはそれだけですか!?」

「カワサキ乗りにホンダの感想聞くほど趣味の悪いことはないだろうな」

 

 蓼原先生が呆れてため息をついた。

 ため息とか、失礼しちゃうわ。私はNinjaのライムグリーンの感想聞かれても、答えますけどね!


「そう言えば、お前の所の飲み会は、途中で帰ったらまずいのか?」

 

 飲み会? なんでその話?


「え? どうしてですか?」

「今度、俺の歓迎会があるだろ?」


 歓迎会を抜けたいってこと?

 もしや?


「ええ、ありますね……。もしかして、木下と抜けたいんですか?」

「まあ、そうなるな」


 予想通りの答えに、私は瞬時に興奮する。


「それなら、大丈夫です! 立川主任に言っておけば、オールオッケーです! 話は通しておきますから!」


 立川主任だって、人の恋路を邪魔することはないだろう!

 蓼原先生が安堵したように頷いた。

 わかる。その気持ち、わかります! 尊いくらいです!


「デートですか? あ、酔った木下を……ってやつですね!」

「よろしくな」


 蓼原先生は頷くと、職員用通路に向かって行った。


「当然じゃないですか!」

 

 蓼原先生の背中に声をかける。

 子犬×美形の道ならぬ恋を応援するのも、私の使命!

 あれ……これは、もしかすると、もしかして?

 2次元だけに納まらないのかも?!

 3次元……いや、とりあえず、二人のリアルな恋路はひっそりと応援するとして、私は2.5次元レベルで楽しめるってことでしょ!

 うっそー! 

 本当に、毎日が楽しみになってきた!


 *


「葉山先輩! 駐輪場に新しいバイクがあるの見ましたか? あれ、誰の何でしょうねぇ」

 

 多田の控えめな、でも明らかにウキウキした声を出す様子に、流石腐女子、と思った。

 私だって、新しいバイクがあったら、同じこと考えそうだから。

 でも、ごめんね、多田。


「あれ、私の」

「え?! そうなんですか? なーんだ。木下先輩の新しいライバル出現かなー、って思ったんですけど」

「そっか。私が男ならねぇ」

「そうですねぇ。残念です。あんなカッコイイバイクなのに」


 多田の言葉に、私は食いつく。


「多田も、そう思う?!」


 多田は大きく頷いた。

 あー。私が男だったらねぇ。

 ……あ、でも2次元で再現するなら、別に私の性別を変えてもいいのか……。


「おはようございます」


 よく知った声が、後ろ側で聞こえる。


「あ、葉山先輩、木下先輩が蓼原先生に声かけましたよ! 何の話するんでしょうねぇ」


 多田の言葉に私は後ろを振り向く。


「おはよう、木下」


 声を掛けられて蓼原先生が顔を上げている。木下は、何かを言いたそうに立ち尽くしていた。

 一体どんな話を始めるのか、ワクワクが止まらなくなる。


「何だ、木下?」

「バイク置き場に、ホンダのマシンありましたね」

 

 もしや、ライバルが登場したと勘違いしてる?!

 ふふふ。私のバイクも木下の嫉妬心を煽るのに役にたったと知ったら、きっと喜ぶだろう。


「ああ、あれなー、葉山のだ」


 蓼原先生がため息をついて、私に視線を向けてきた。

 なるほど! 私は私の役割を果たせばいいんですね!


「は?! 葉山?!」


 木下が素っ頓狂な声を出す。私は木下に近づく。


「木下も見てくれた? あれ!」

「……ああ」

 

 木下のテンションは低い。

 ……ライバルにならないってわかったから安堵した?

 ……それ、つまんない。


「何よ、そのテンション」


 私がムッとする。それを見た木下もムッとする。


「……カワサキ乗りにホンダ見て機嫌良くしろって言う方が無理だろ」


 木下が呟いた言葉に、私は興奮する。


「流石、木下!」

「は?」


 木下があっけに取られている。

 でもね! 


「言ってることが蓼原先生と一緒! 流石ねー!」


 視界の端で、蓼原先生がカルテを打ち始めるのが見えた。

 ……もっと木下と絡んでくれていいのに!

 まあ、仕事だから仕方ないか。


「流石じゃねーし! カワサキ党なら、同じこと言うだろ!」


 憤慨した様子の木下に、私は気分が上がる。

 きっと、私が蓼原先生との会話を邪魔したのに、怒っているに違いない!


 ああ、2.5次元、どうやってかかわるのが正解かな?!

ちなみに、ですが、葉山のような腐女子ではないので、作者は知ってる言葉と調べた言葉のみでこの作品を書いています。

ので、その言葉の使い方が間違ってる! とか、この言葉が当てはまる、とか腐女子情報に詳しい方からのご指摘があれば、素直に従いますので、教えてください。

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