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ナル『バイクに乗るの面白いって初めてわかった!』
ベッドの中であくびをしながらLINEを送ると、すぐにピコリと返信がある。
たる『今更過ぎる。でも、また何で?』
ナル『美形とツーリング行ったんだよ』
たる『え? 美形とツーリング? えーっと、子犬も一緒?』
たるの返信に、笑いが漏れる。
もうたるの中でも子犬×美形の組み合わせが完成してるのがわかったから。
ナル『子犬はいなくて、私がタンデムというスチルにならない絵面だったんだけど』
たる『あー。前にも家まで送ってもらったってあったよね?』
ナル『今回は、本当にツーリングだったよ。結構遠くまで連れてって貰った』
たる『え? どうしてそんな話に?』
ナル『仕事帰りに、送ってくれるってなって、で、その流れで』
たる『その流れはよくわかんないけど、美形って親切なの?』
蓼原先生が親切か?
私は即答できなくて首を捻る。
親切……? って言えるのかな?
ふと、木下が熱を出したときのことを思い出す。
ナル『どうだろう? 面倒見はいいのかも? どうして?』
たる『面倒見はいいのか。いや、他の人もそんな感じで送ったりするのかな、と思って』
たるの文面を見て、心がざわりとする。
……今の、何だ?
あ、そうか。蓼原先生が送っていいのは、木下だけだよね!
ナル『美形が送っていいのは、子犬だけであります! すいません、隊長! 私が理想の二人の邪魔をしてしまいました!』
たる『いや、そういう話じゃない』
ナル『どういう話?』
たる『言葉通り。美形は他の人も送ったりしてるの?』
蓼原先生が、他の人を送っていくのか?
ナル『子犬はあると思うけど、他には聞いたことはない』
木下以外に?
何だかちょっとモヤモヤするぞ。
たる『そうなの?』
ナル『うん』
えーっと、何でモヤモヤするんだろ?
たる『でも、それならナルはどうして乗せてくれるんだろ?』
ナル『え? 体調悪いからじゃないの?』
たる『え? 体調悪いのにツーリング行ったの?』
ナル『その時は悪くなかったよ』
あのときは、まだ生理始まってなかったんだよね。それもあってツーリングできたってのもある。
たる『え? じゃあ、何で送ってくれる話に?』
ナル『私がバイクで来てなかったから?』
えーっと、それ以外に何かある?
たる『そこまで面倒見いいの? でも、他の人が帰るときに、じゃあ送って行くって言ってることはないんだよね?』
ナル『聞いたことはないけど』
たる『美形から何か言われたり、した?』
なんとも脈絡のない。
あ、でも言われたな。
ナル『今度のGWツーリングに誘われた』
たる『ナニソレ! それって!』
ナル『子犬とバイクの祭典に行くんだって』
Ninjaと打ちかけて、バイクに興味のないたるにはわかんないな、と思って書き換えた。
たる『子犬と、3人ってこと?』
ナル『そう』
たる『行くの?』
ナル『行かない』
たる『行かないの?』
たる妙に食いつくなー。
ナル『だって美形と子犬のタンデムが見られないから』
たる『拒否理由が腐』
ナル『だって美形と私のタンデムなんて面白くない』
たる『え? ナルは美形とタンデム? だってナルはバイクあるでしょ?』
ナル『美形と子犬のバイクのイベントなの。私のメーカー違うし』
たる『それ、何で誘われたの?』
ナル『バイクに乗る面白さに目覚めた、って言ったからじゃない?』
それ以外に、ないよね?
湧いてきたあくびを噛み殺す。
たる『違うメーカーのバイクに乗ってるのに?』
ナル『面倒見がいいから? 連れていきたいって言ってたし』
たる『いやそれって! そういうことでしょ!』
ナル『何?』
たるの言いたいことがわからなくて、私は首をかしげた。
たる『ナルに興味があります、ってことじゃないの?』
ナル『何のこと?』
たる『いや、自分で書いたよね。″連れていきたい″って言われたって』
ナル『書いたけど?』
たる『それって、自分が見る景色をナルにも見せたい、ってことじゃないの?』
たるの文面に、はたと止まる。
ナル『そう思ったら、興味があるってことになるの?』
たる『なると思うけどね』
ナル『そうかな?』
たる『そうだよ』
ナル『私はなったことないけど』
たる『それがナルのナルたる由縁だよ』
うむ。わからない。だけど、一般的にはそうなのか。
私はあくびをひとつして、入力する。
ナル『子犬と同じレベルになったってことね』
たる『いや、全然違うから!』
ナル『え? 知り合いから親しい同僚になったってことじゃないの? 子犬×美形じゃないよ』
たる『むしろ恋愛感情でしょ!』
ピコリと浮かんだ文字に、私は目を見開く。眠い気分がちょっと飛んだ。
ナル『まっさかーw』
たる『音声に切り替えていい?』
私はスマホの時計を見る。
もうすぐ12時。そして明日は仕事。
またあくびが出る。
……いや、寝よう。
ナル『明日仕事だし、実はもう眠いんだよね』
たる『そっか。じゃあ、一つだけ』
ナル『何?』
たる『美形のこと、ナルはどう思ってる?』
蓼原先生のこと?
ナル『安心するな、とは思うけど』
何って表現したらいいかな……。
私は重くなるまぶたと戦いながら、最適な言葉を探す。
たる『それって』
ナル『お父さんみたあ』
表示されたのを確認して、私のまぶたは、完全に落ちる。
たる『あー。そういう認識か』
たるの言葉を見て首をかしげたのは、次の朝。
どう言うこと? とは思ったけど、質問する暇はなく。
その疑問も、すぐに忘れた。




