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タイトル変更しました! ようやくしっくり来た感じです。
久々の連休。私のプロットの筆の進みは、今まで以上最高に速い!
何しろ、この間のタンデム体験が、私の創作意欲に、いい仕事をしている!
ピコリ、と脇に置いてあるスマホの表示が動いた。
たるか。
何々? 『何してる?』って?
愚問だね!
ナル『子犬と美形がタンデムで愛を深めてるところ!』
たる『あ、プロット中? 作画中? 邪魔してスマン。先生の邪魔をする気はなかったんだよ』
たるは腐女子ではあるけど、専ら読み専。絵は描けない……と言うか、事故レベル。揶揄って画伯と言われる人レベルの問題作が出来上がる。だから、絵を描けるってだけで私は崇め奉られ、私が漫画を書いてるときは、私を先生と呼ぶ。
ナル『別にいいけど、何かあった?』
たるが『何してる?』って聞いてくるとか、珍しいんだけど。大体、たるとのLINEでの会話は、唐突に始まるものだから、ご機嫌うかがいとかされたことがない。
たる『いや、暇かなー、と思って』
ナル『えーっと、キリがいいところまで描いていい? ちょうど筆が走ってて』
たる『勿論!』
私はさらさらと描き加えて、筆を置いた。
ナル『終わったぞな、もし』
たる『はやっ。5分もたってないけど』
ナル『プロットだからね。絵はそんなに描かないし』
たる『私なら、1時間はかかりそう』
ナル『否定はしない』
たる『そこは否定しようよ!』
ナル『いやいやw で、何?』
わざわざ、ご機嫌うかがいするって何?
たる『ナルは、好きな人いないの?』
撤回しよう。やっぱりたるは唐突だった!
ナル『コーイチ』
でも、これ以外の答えがあるか?
たる『いや、リアルで』
そんなことは重々承知しているが、答えようがない。絞っても何も出ない。
でもこれって、逆もあり得る?
ナル『好きな人ができたの?』
聞いてほしいってこと? ドキリとする。我々の中で、リアルな恋愛話は一度もなかったから。
たる『いや、違うけど』
その答えに、ちょっとホッとする。寂しい感覚があったから。
……でも、恋愛をしないって決めてる私とは違って、たるはそんなことは言ったことがないし、実際に彼氏ができたとしてもおかしくはない。
たるは腐女子なだけで、常識人だし、しっかりしてて、さらさらの髪の美人おねーさんだと思う。
ナル『気になる人ができた、とか?』
たる『いや、ないけど』
ナル『……何故に聞いてきた?』
たる『いや……ナルのリアルは充実してるかな、って思って』
ナル『してるけど? こうやって朝から漫画のプロットに没頭してる! 5時に目が覚めた!』
この間、帰ってからすぐはさすがに書けなくて、ようやく痛みが落ち着いたから、今日から描き始めたところだった。
たる『引きずり込んだの私だけど、今さら罪悪感覚えるわ』
ナル『大丈夫! 恨んでない! 寧ろ感謝してる!』
たる『今更だけど、ナルの将来が心配だわ』
ナル『大丈夫! 国家資格だから、食いっぱぐれない!』
私が放射線技師の仕事を選んだ理由のひとつは、それだから。
たる『そういうことじゃないんだけど』
ナル『知ってるけどw お母さんみたい』
お母さんにも同じこと言われるけど、右から左だ。
たる『そういう気分w』
ナル『そう言えば、奇跡のタンデム体験の話、してないよね?』
たる『何その神がかりワードw』
私が生理中のときは、たるは連絡を控えてくれる。だから、あのときの話はまだたるにしてなかったんだよねー。
ナル『実はさ……美形のバイクにタンデムすることになって』
たる『何その面白展開。何があったわけ?』
いい食い付きだ! 語るよ、語るよ!
*
連休明けは、患者の数が増える。ついでに連休中に救急車で運ばれてきた患者の画像もたまっている。そのせいで、放射線科も忙しくなる。
だからと言って、感じる違和感は、そのせいだけはないと思うんだよね。なーんか、変な感じがする。
私は読影に追われている蓼原先生をちらりと見たあと、木下を見る。
「ねえ、木下。今日の蓼原先生って、ちょっと変じゃない?」
私の言葉に、途端に木下が顔をしかめる。
「そう思うなら、蓼原先生に直接聞けばいいだろ。何でいちいち俺に話しかけてくるんだよ! しかも、蓼原先生挟んで聞いてくるとか、わけ分かんないだろ!」
私と木下は蓼原先生を挟む形でそれぞれ電子カルテに向かっている。だから、私は蓼原先生を飛び越えて、木下に質問した形になる。
「えー。だって、彼氏の事なんだから、木下なら知ってるかなー、と思って」
違和感と言っても、大したことではない。だけど、ネタに使うには、やっぱり木下の絡みがないと困るから!
「知るかよ。……って言うか、いつもと変わんないだろ」
「そう? ま、蓼原先生を愛する木下がそう言うなら、そうかもね」
「ちがうっつーの!」
ムッとした木下が、強いタッチでキーボードを打ち始める。蓼原先生がクスリと笑いつつ、私に視線を向けた。
「どっか違うか?」
どこが、と言われてしまえば、わかりません! としか言い様のないそこはかとした違和感だ。
そもそも、ネタとしては見ているけど、蓼原先生そのものを見てるわけじゃないから、具体的に説明できるようなものもない。
「あ。そうです、そうです! 蓼原先生の木下LOVEオーラが足りないんです!」
あってほしいとすれば、それかな!
「そんなものあるわけねーだろ!」
木下が即答した。木下のキーボードが、一段と強い音を出す。
「いやーね。これだから、蓼原先生の気持ちを勘違いした木下が暴走したりするのよ」
「するか!」
「……お前ら、静かにしろ」
呆れた顔の蓼原先生が私たちに注意する。木下はムッとして、当然私はニヤリとして黙り込んだ。
「お前ら、本当に飽きないな」
「……俺は飽き飽きしてますけど」
「あ、そうですよ。蓼原先生休憩も取らずに根詰めてるから、いつもと違うんですよ!」
私は木下の言葉をスルーして、たどり着いた答えに蓼原先生を見た。
「……そうか?」
「そうですって。だって、蓼原先生、上手いこと息抜くなーって、思ってたんで、今日は全然息抜きしてないのが、変だと思ったんですよ」
いくら仕事が忙しくたって、蓼原先生はいつも飄々としていて、こんなに忙しいのに、上手く息抜きするなー、っていつか思ったのを思い出した。そうそう、今日はそんな感じがない。どこか追われてる感じというか。
「……そうか?」
蓼原先生が、何かを思ったのか目を伏せた。
うーん。何かわからないけど、疲れてるのかな?
「先生、休憩行ったらどうですか? お昼も食べてないんでしょ?」
「流石木下! できる夫は違うね!」
そう言われれば、私と木下は昼休憩取ったけど、蓼原先生はお昼食べてないのかも。
流石、木下。相棒は違うねー。
テンションの高い私を、木下が冷めた目で見る。蓼原先生があきれた表情になる。
「……いや、普通のこと言っただけだろ。それより、お前よく見てんな」
「私の人間観察力をなめないでよ! だてに腐女子してるわけじゃないわ!」
腐女子の観察力なめんなよ!
「……いや、きちんと観察できてないよな? 特に俺のこと」
「え? ゴメン……確かに、そうかも」
木下の指摘に、私はハッとする。そうか……。
「私には、木下がどれだけ蓼原先生を愛してるかなんて、その愛の深さまでは流石に量れないもの」
低いトーンで続けた言葉に、一瞬の間が空く。
「もう嫌だ。蓼原先生、葉山どうにかしてください!」
木下が蓼原先生に懇願している。おかしいな。間違ってないよね? 設定的には。
「……無理だな」
蓼原先生は肩をすくめて立ち上がった。
「あ、先生休憩ですかー?」
ようやく、蓼原先生は休憩をとることに決めたらしい。
「おう。なんかあったら電話くれ。食堂にいる」
「了解です!」
元気に返事する私とは対照的に、木下はムッとした顔をして蓼原先生を見ていた。
やだな、電話するのは木下だって! 嫉妬しなくて大丈夫!




