関口 陽(ひなた) (5)
「では……目的は何だ? どうやら、私は、お前が仕組んだ茶番に巻き込まれたらしいが……出演依頼は来てないし、脚本は届いてないし、出演料の交渉もやった覚えは無いぞ。とんだ、三流プロデューサーだ」
声の主は羅刹女だった。
「主演俳優の御登場か……。拍手ぐらいはした方がいいかな?」
昭和ヒーローもどきは、そう答える。
「話を逸らかさず、私が、聞いた事に答えてもらえると有り難い」
「正直……この島に居るのが、お前のような小娘だと知った時は……失望した。残りの2人のどちらかだと思っていたのでな」
「貴様の目的は……最初から『国防戦機』では無かった……。そして、この『九段』を壊滅させたのも……ついでか……。目的は……お前以外の『護国軍鬼』を名乗る者を誘き出す事」
「そうだ……。そして、最初は、お前のような小娘では……俺を『古い時代の悪』として粛清する『新しい時代の正義』としては役不足だと思っていた。俺とした事が、とんだ勘違いだったがな」
羅刹女は肩をすくめた。……わざとらしく、大袈裟に……。
「フザけた真似を……。冗談のつもりで、お前を『三流プロデューサー』と呼んでみれば……本当に、自分達に代る『正義』をデッチ上げるつもりだったとは……」
「ど……どう云う事だ?」
私は羅刹女に訊く。
「細かい理由は判らん……。だか、この男は……私達『御当地ヒーロー』を『対異能力犯罪広域警察』に代る『日本の護り手』に仕立て上げたいらしい。『御当地ヒーロー』の代表たるに相応しい誰かに……『レコンキスタ』の代表である自分が『悪』として倒される事でな」
「はぁっ?」
この場に居た、ほぼ全員が、ほぼ同時にその声をあげた。
その中で……昭和ヒーローもどきだけは……わざとらしい拍手をしていた。
「ご明察の通りだ。最初は……お前では役不足だと思っていたが……お前の実力を知って考えが変った。逆に若いお前こそが、次なる時代の『正義』の象徴に相応しい」
「何故だ……? 何故、そんな真似をする必要が有る?」
「理由は2つ……。1つは……この国も、この国の人間も変ってしまった。良い方にな……。かつては……この国の政府の存在そのものが、国を危うくし続けていた。だが……政府が機能しなくなってから、この国の人間は……自分達で新たなる秩序を築き上げた。どうやら、人間には『秩序無き所に秩序を築き上げる』本能が有るようだ。ならば、秩序を維持したくば、上からの秩序を押し付けようとする者を排除せねばならない。その事の象徴こそが、お前たちだ」
「な……き……貴様……まさ……か……」
「英霊顕彰会」の親玉らしい老人は……唖然とした声で言った。
「なるほどな……。生命の危機においては『助かりたい』と云う欲こそ命を失なう要因になる。女にモてたけりゃ、まずは『女にモてたい』と云う気持ちを捨てるのが早道。なら……自分の国を愛してるなら、愛国者を排除し、愛国心なんぞドブに捨てるべき……。それがあんたのロジックか……」
「そう云う事だ」
「で……2つ目の理由は?」
「俺は……こんな国など愛してはいない。だが……古い友の頼みで、この国の弱い者や傷付いた者を護ってきたつもりだった……。だが……気付いた時、俺より、それを上手くやっている者達が居た。他ならぬお前たちだ」
「なるほど……私に、あんたを倒して、あんたに成り代わる茶番を演じろ、と要求してるのか」
「ああ……」
「わかった、なら、出演料として、その御老人をもらおう」
羅刹女は、そう言って「英霊顕彰会」の親玉らしき老人を指差した。




