The Creature (4)
糞、クソ、くそ、くそくそくそくそくそ……。
悪態がワンパターンになってるのは……俺が冷静さを失ないつつある兆候だと云う自覚は有るが……どうすれば良いのか判らない。
俺は、冷静でなくなっているから対処法が判らず、対処法が判らないから冷静さを失なう悪循環にハマっていた。
『敵兵士に対抗する為の有効な方策が見付かりません。威嚇射撃しつつ撤退した後、作戦計画を再検討する事を推奨します』
戦況分析AIからの役に立たない助言。なら、一番、効率良く撤退する方法を助言してくれ。
この機体のAIは……一〇年前から更新されてないにしては……結構、出来はいい……。
その点は俺も認める。
俺とこの機体の組合せなら……普通の戦いなら何とかなる。
それも正しい。
俺みたいな「急拵えのパイロット」でも……大概の事は……デカい失敗をせずにこなせる。
主力戦車はキツいが、結構、大型の軍用装甲車でもあっさり倒せる。
同じ「国防戦機」でも、通常型なら……1度に5機ぐらいまでなら、何とかなる。
対人用の武器しか持っていない一般人が相手なら……軍事独裁国家が民主化デモ鎮圧の為に雇ってくれれば……ギネスブックの「大量虐殺犯」の項目に名前が載る事やノーベル殺人賞の受賞だって夢じゃない。……もっとも、「ギネスブックの『大量虐殺犯』の項目」だのノーベル殺人賞だのが実在すればの話だが。
魔法使い? 俺には大概の魔法は効かない。体に埋め込まれた変な玉っころのお蔭だ。
変身能力者? 並の人間をたった1人で5分以内に二〇人殺せるヤツでも……この機体の装甲をブチ抜くのは簡単じゃないだろう。
遠くのヤツを狙撃するのも、近くの敵に機関砲を乱射するのも……素人の俺が操縦していようと、AIがいい具合に補正してくれる。
……だが……。
こいつの装甲を貫ける「弓矢」。そんなフザけたモノを作るヤツが居るなんて考えてませんでした。対処方法に関するデータはAIに有りません。そもそも、この機体のAIは、「敵が弓を構えている映像」を「見て」も、敵が自分を攻撃しようとしてるかどうかさえ判りません。残念でした。
こいつの装甲を斬り裂ける日本刀もどき。……以下同文。
銃口を向けると……そりゃ理屈の上ではそうしたら逆に「射線が通らなく」かも知れないが……逃走も後退もせず、物陰に隠れようともせず、こっちに向って来るヤツ。……射撃補正機能がうまく働きません。
「貴方は人間サイズの強化服しか着装してません。相手は4m級の軍用パワーローダーです。相手の攻撃を一発食らっただけで、貴方は死にます。でも冷静かつ的確に対処すれば、相手の裏をかけるかも知れません」と云う状況で、本当に冷静なままでいられる命知らず……。想定外です。つまり、そんな相手との戦い方など、AIは学習してません。
一事が万事、こんな感じだ。
ここから……生きて帰れたら……笑い話のネタには成りそうだ……。
4m級の軍用パワーローダーが……戦闘用とは言え強化服を装着した人間……それも推定身長からすると……「男なら中学生ぐらい」「女だとしても小柄な方」と云うヤツに……押されて……何とかその追撃を振り切ろうと四苦八苦しているなどと……。




