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護国軍鬼・零号鬼:二〇世紀末まで

「まだ、日本は好きにはなれませんか?」

 十年ぶりに成田を訪れた時、彼女は、そう言った。

「この国や、この国の人間の全てを好きになれる訳じゃない……」

 季節は春だった。

「そう言えば、貴方の故郷にも桜は有るんですか?」

「ああ……有るが……日本の桜より……もっと赤い……」

 彼女の顔には皺が目立つようになり、肌は艶を失ないつつあり、髪には白いものが混り始めていた。

 この戦友の元を離れたのは、結果的に正解だったのかも知れない。

 俺は、何故か、若いままだった。おそらくは、高木美憲(よりのり)が俺に与えた力のせいだろう。

 この国の数少ない友が老いて死んでいくのを、俺は若いまま見続ける……。

 多分、俺には、それに耐えられる強さなど無い。

「貴方は、日本が嫌いだと言っているのに、私と娘は助けてくれました……」

「弱い者や傷付いた者には手を差し延べる。……人として当然だ……」

「では……この国の弱い人や傷付いた人を助けてもらう事は出来ませんか? 貴方の、その不思議な力で……」


 彼女が住んでいた辺りには、巨大な空港が造られる事になった。

 次に、成田をを訪れた時には、彼女の家や田畑が有った辺りでは工事が行なわれており……彼女の行方は判らなくなっていた。

 どうやら……俺は……友が苦しんでいた時に側に居てやれなかったらしい……。


 俺は、若い体のまま、この国を彷徨い、時に、この国の弱い者や傷付いた者を助ける事が有った。

 時には、俺に似た異能の力を持つ者と出会い……場合によっては戦う事も有った。

 だが、高木美憲(よりのり)が俺に与えた力は、異能の力の中でも、桁外れのモノらしく……他の異能の者と戦いとなっても苦戦した事は、ほとんど無かった。

 数少ない例外は……どうやら、俺の異能の元になったらしい者達と戦った時だった。

 奴らは、俺を自分達の紛物(まがいもの)と見做しているらしかった。

 しかも、俺と奴らは、互いの居場所がある程度は知る事が出来た。

 俺は、面倒な戦いを避ける為、更に日本を転々とし続けた。


 やがて……日本は空前の好景気となり、日本の王は代替わりして、そこから一転して日本は没落し……その間も、俺は若いままで、日本を彷徨い続けた。

 この国の人間の中で、数少ない友であった女に、最後に会った時に言われた「この国の弱い者・傷付いた者を助ける」……それをやり続けてはいたが……どんなに強大であっても、命を終らせる事は容易くとも、命を救う事には不向きな力を持つ1人の人間に、出来る事は限られていた。

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