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高木 苹采(ほつみ)

「え……と、終ったのか?」

 瀾は、そう聞いた。

「ま、一時的な封じ込めには成功してるみたいだ……」

 三重に張られた結界の中の悪霊の(むれ)は……どうやら本当に「外」を認識出来なくなってるようで、結界内を飛び回りながら、お互いに食い合ったり、時には1つの個体が複数個体に分裂している……ように見える。

 護国軍鬼を着装している者は……魔法的・霊的な存在は……「神」そのものか、「神」の支配下に有るモノしか認識出来なくなる。

 そのせいで、瀾には、この一大スペクタクルが見えないようだ。

『あれを乗せた船が「有楽町」の港に到着』

 その時、後方支援要員から連絡。

「あいつの仲間の救出が終ったら……久米達が持ち込んだ武器を回収する。あれと戦うのに使えるモノが有るだろう」

「判ってると思うが、『島』の底をブチ抜いたりすんなよ」

「ああ……ところで……3つ目って一体?」

「大体、想像は付いてるだろ」

 この「島」に「護国軍鬼」と同じテクノロジーで作られた何かが、更にもう1つ、空から近付きつつ有るらしい。

 「国防戦機・特号機」のパイロットは、既に、この「島」に到着している。

 護国軍鬼の試作機である一号鬼は厳重に保管されている。万が一、持ち出されていても……心臓部である「幽明核」はともかく、機関部は二十年以上前のモノ……マトモには動かない。

 護国軍鬼・二号鬼は、こちらに陸路で向っているが……到着には、まだ、時間がかかる……。

 行方不明中の三号鬼は……一度、除装したが最後、制御AIの再起動は不可能な上に、万が一、この半年以上、ずっと着装し続けていても、そろそろ、部品にガタが来る頃だ。

 だとすれば……。

 百年近く前に作られた改造人間……。

 私の先祖が生み出した「対神人間兵鬼」と、私が設計した「対神鬼動外殻」。

 ……それが、今夜、出会う可能性も有る訳か……。

「まさか、最初の護国軍鬼と最新の護国軍鬼が戦う所を見たいなんて思ってないよな?」

「馬鹿言え、そっちそこ、どうなんだ?」

「私は戦闘狂でも、昔の格闘マンガの主人公でもない。戦わずに問題が解決出来るなら、それに越した事が無い事ぐらい判ってるよ」

 瀾は、やれやれと言った感じで、そう答えた。

「それに……少し不安だしな……」

「お前が? 不安?」

「おっちゃんが死ぬ前に言ってた事が……今度こそ……裏目に出るかも知れない……」

「えっ? 何の事だ?」

「ずっと……感じた事が無いんだ……。最後に感じたのは、小学校低学年の頃……いや、それも記憶違いで……私は、一度も、そんな感情を抱いた事が無かったのかも知れない」

「だから、何を言ってる?」

「何年も感じた事が無いんだ……。恐怖を……怪我をする事……苦痛を感じる事……そして死ぬ事に対する恐怖を……」

「おい……待て……それは……」

「G・K・チェスタトンだっけ? 昔の推理作家が言ってただろ。『命を捨てる者は、却って命を拾い、命を惜しむ者は、却って命を失なう』と云う聖書の一節は英雄や聖者の為の教えでは無い、生命の危険が有る仕事をする者の為の教科書の冒頭に載せるべき言葉だ……みたいな事を……」

 瀾の口調は異様に淡々としたものだった。

「それが、体格も経験も劣る私が、危険に身を晒しながら、今まで死なずに済んだ秘訣かも知れないけど……今度は、どうなるか……」

 この夜、この「島」で起きた戦いは……前哨戦がやっと終ったばかりだった。

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