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眼鏡っ子 (1)

「あの……いつか……勇気さんの弟さんと妹さんのお墓で会った事が有る……」

 あたしは……強化装甲服(パワードスーツ)を着た人にそう言った。

 「護国軍鬼」……そう呼ばれる本土の「御当地ヒーロー」の内、今年になって、突然現われた3人目。

「ノーコメントだ。だが、あいつの事は知ってる」

「あの……勇気さんは……?」

「拘束した……。場合によっては警察に引き渡す。もし……あいつの身が心配なら……あいつが『精神操作』の『魔法』をかけられていた証拠は有るか?」

「ええっと……」

「万が一の場合の為に、準備しておけ。警察も検察も裁判所も、自分で『精神操作』の『魔法』をかけられる事を望む阿呆が居るとは想像もしないだろう。『精神操作』されていた証拠さえ有るなら……保釈か情状酌量だろう。とは言え……この『島』の警察が、今後どうなるか知れたモノじゃないがな」

「は……はい……」

「私からも聞きたい事が有る。今、暴走している『魔法』を恐怖心に囚われた者が使うと、どうなる?」

「えっ?……それは、当然、心身ともに万全の状態でないと危険なモノなので、強い恐怖心に支配された状態で使うと……」

「こうなる訳か……と言っても、今の私は、その手のモノは一切見えないんで、どれだけ酷い事になってるか判らないけどな」

 えっ? どう云う事?

「どうやら……私は、この『魔法』を使ったヤツを……強い恐怖に支配された状態に追い込んでしまったらしい。……私も……自分が思っていたより……遥かに未熟だ……」


 多分……あたしの叔母、あたしの育ての親、あたしの「魔法」の師……そして「薔薇十字魔導師会・神保町ロッジ」の「総帥(グランドマスター)」だった人は、もう、この世には居ない。

 悪い人じゃなかったと思う。むしろ、あたしからすると優しい人だった。

 でも……。確かにレナさんの言う通り、傍から見れば、問題だけらの保護者かも知れない。

 そして……夏のあの事件以来……何もかもが狂い始めた。誰が悪いかは判らないけど……。歯車が噛み合っていないのに、動きだけは止まらないまま暴走し続ける壊れた機械。

 誰もが、そんな状態に陥ってしまった。

 その結果が……これだ。何人の人達が……あたしや叔母さんや勇気さんの暴走に巻き込まれたのだろう?

 身寄りも仲間も失なったあたしは……この「(東京)」を離れ、「本土」で暮す事になるだろう。

 そして……魔導師の修行や自警団活動じゃなく……普通に高校にでも行って、普通の大人になるだろう。

 でも、そんな事は今、考えても仕方ない。

 乱れた心を落ち着ける為に、あたしは「魔導師」としての「誓言」を唱えた。

「Si vis pacem……para bellum‼ Si vis bellum……para pacem‼」

 もし平和を望むなら戦いの勃発に備え……戦いを望むなら平和の到来に備えよ。

 その言葉と共に、あたしの「使い魔」である紫色のサーベルタイガーが姿を現わし……そして……「野蛮なるモノ」たちが満ち溢れている区画の周囲を円を描くように走った。

 「野蛮なるモノ」たちを封じ込める為の三重の「結界」。「内」に居る者を「外」に居る悪霊から隠すのではなく、「内」に居る悪霊から「外」の世界を隠す為の言わば「逆隠形」結界。

 肉体を持たない悪霊は、物理的な感覚を持たない、ならば……外の世界の気配を隠す「結界」を張れば、一時凌ぎかも知れないけど、悪霊達は外の世界を認識出来なくなる筈と云う逆転の発想を元にした結界が、今、作られつつ有った。

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