関口 陽(ひなた) (3)
いや、吹き飛ばされたのでは無い。
「羅刹女」は宙返りをすると着地。何事も無かったかのように立ち上がる。
私は、狼男を観た。「見る」ではなく「観る」。
狼男も、私に観られて、「何か」を感じだようだ。怪訝そうな表情……狼男の「怪訝そうな表情」が、どんなモノかは説明しづらいが、ともかく怪訝そうに見える表情だ……になる。
「観る」とは、要は、相手の「気」を探る事。「観る」事で、ほんの誤差程度だが、相手の「気」に影響を与える。「魔法」の訓練をしていなくても、何かを感付くヤツは居る。
とんでもない「気」の量だ……。「魔法」の訓練は受けていない……。しかし……喩えるなら、私が、魔法でこいつを攻撃するのは……軽量級の格闘家が、体重百㎏オーバーの格闘家ではないが一流アスリートに喧嘩を売るようなモノ。
パンチが当たっても効く筈が無い。相手が格闘の素人でも投げ飛ばせる訳は無い。寝技・関節技は力づくで破られる。
こいつらの同族が、もし、私と同じ稼業を志し、十年か二十年、真面目に修行したなら……技術はともかく、私が所属している「自警団」の幹部「七福神」3〜4人分の「気」量を持つ化物が誕生するだろう。
「魔法は効かんようだな……」
「みたいだ……そっちの攻撃も……」
「ああ、あいつは相手の攻撃に合わせて、体毛の物理特性を変えられる。相手が打撃を使おうとしているなら、打撃を防ぐのに向いたモノに、斬撃を加えようとしているなら、斬撃を防ぐのに向いたモノにな」
「つ……つまり……いや、それって、まさか……」
「おい、チビ介。新顔のお友達に教えてやれ。俺は、一度食らった技は二度と効かない、ってな」
狼男は、そう言いながら突撃。
後退しながら、その攻撃を捌き続ける「羅刹女」。
いや、攻撃が当っているのは「羅刹女」の方だ。しかし、効いていない。
私は2人を追う。しかし、追ったとして、私に、何が出来るんだ?
『プラン「バーベキュー」』
無線通信で謎の一言。えっ? どう云う意味だ?
ヘッドマウント式のモニタの隅に「羅刹天」を意味する梵字と、その下に「Nirrti」の文字が表示される。どうやら「羅刹女」からの通信だ、と云う意味らしい。
次の瞬間、「羅刹女」の「鎧」から、あの「炎に焼かれる死霊」が吹き出る。
『大元帥明王‼ 横に飛んで伏せろ‼』
訳も判らぬまま言われる通りにすると……。
私が、さっきまで居た場所を爆炎が吹き抜けていった。




