関口 陽(ひなた) (1)
着てみて、ある事に気付いた。
この強化服そのものが一種の「護符」になっている。
しかし……。
「これって、防御用の魔法か呪術がかけられてますよね? でも、何か、おかしいつ〜か、面白いつ〜か……」
私は、もう1人の「水城」にそう聞いた。
「いや……その手の事は良く知らないけど……どうやら、今回は『魔法とかを防ぐ』よりも『気配を隠す』方を重視した防御魔法がかけられてる、って聞いてる」
いや、確かにその通りだ。しかし……。
「それって、その……」
どう考えても、「並の防御魔法では防げない霊的攻撃をしてくる相手」と遭遇する可能性が高い、と……少なくとも、こいつらの指揮官は考えているらしい。
「理由は、こっちが心配してる事態が本当に起きたら説明する……。けど、もし……万が一……『九段』だっけ、あそこの『死霊使い』達が飼ってる『死霊』が飼い主の手を離れて暴走しても、気配を隠す魔法でやり過ごせ……って話だ」
「えっ?」
お……おい、何が起きようとしてるんだ、一体?
「ところで、何て呼べばいいんだ?」
その時、「チビ」改め「ニルリティ」が、そう声をかけた。
「『何』って何?」
「私がお前を本名で呼んでる所を、誰かに見られてマズい事になってもかまわないなら、本名で呼ぶけど、その後の面倒までは見る事は出来ないし、見る気もない」
「……あぁ、そう云う事か」
「まさか、私もか?」
もう1人の「水城」も「ニルリティ」にそう聞いた。
「そもそも、何で、『工房』のメンバーが強化服着て殴り合いをしようとしてるんだ?」
「悪いか?」
「そっちのコードネームは『工房』のメンバーとしてのモノだろ」
「急ぎだ。コードネームはいつものを使う」
「じゃあ、コードネームを確認する。『羅刹女』」
「早太郎」
そう言ったのは銀色の狼男。
「猿神」
黒いコートに京劇の孫悟空風のペイントのフルヘルメットの男。
「北の港のカフェの副店長」
もう1人の「水城」。
「へっ?」
どうやら、その「北の港のカフェ」ってのが「工房」とやらのコードネームで、そこの№2って事なんだろう。
「残るはお前だ。早くコードネームを決めないと本名で呼ぶぞ」
どうも、インド神話系のコードネームが多いらしい……なら……。
「えっと……火神……」
「却下」
「何でだ?」
「残念だが、仏教の護世八天の名前は、ほぼ全部、こっちの中でも大物クラスのコードネームとして使われてる。一時的な呼び名でもまぎらわしい」
一応、私の守護尊は金剛蔵王権現だけど……日本でデッチ上げられた神様なんで、サンスクリット語の名前が無い。
「なら、大元帥明王で」
「よし、じゃあ、呼び名も決ったんで、行くぞ。あと、何か言われた時の返事は『ああ』『うん』とかじゃなくて、Yes/Noが判るような返事をしてくれ」
「わかった……」
「どうした? 気になる事でも有るみたいだが……」
「いや……私のコードネームについて、何か嫌味を言われるかと思ったんでな……」
「言って欲しかったのか? コードネームと実力が釣り合ってない、とか」




