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関口 陽(ひなた) (1)

『おい。他の連中は、俺の仲間が追う。あのチビからやれ』

 奴らは無線でそう連絡してきた。

「待て、本当に判ってるのか? ここは全『自警団』にとって『中立地帯』だ。ここで騷ぎを起こせば……この『島』だけじゃなくて、4つの『島』全ての『自警団』を敵に回す事になるぞ」

『そりゃ大変だな。でも、大変になるのは、俺達じゃなくてお前ら「入谷七福神」だ。俺達はいいから、自分の仲間の心配をしろ』

「ふざけるな……」

 とは言え、ヤツの言う事にも、たった一箇所だけは妥当な点が有る。

 私は、奴らに捕まって、薬で眠らされている仲間の心配をする必要が有る。

 私達の仲間と……あと「決闘」相手だった「寛永寺僧伽」の連中も、「決闘」の場に撒き散らされた催涙ガスのせいで、あっさり、奴らの捕虜になった。

 「力」を使うのに必要な精神集中が出来なくなった「呪術者」など、案外、モロい。

『さっさとやれ』

 仮にも「自警団」のメンバーが……明らかに自分より体格で劣る相手を攻撃する。しかも、バイク乗りのような格好をしているが……あの体格だと、実は中身が中学生の可能性も有る。

 この辺りには街頭監視カメラがいくつも有り、しかもカメラの映像はWEBで公開している。私が今からやる真似は全世界に生中継されるだろう。

 下手したら、数分後には、私は、自分より明らかに体格が劣る相手を誰に見られてるか知れたもんじゃない場所で叩きのめした「自警団」員になってるだろう。

 あのチビを叩きのめした瞬間、私は「弱きを助け、強きを挫く」と云う最後の建前さえも、このハンマーで粉砕する事になるだろう。そうなったら、私達は「自警団を名乗る事実上のヤクザ」じゃない。単なる「ヤクザ」だ。

 くそ、明日から、どんな顔して生きていけばいいんだ? たまたま「視聴者」が居ない事を祈るしか無い。

「オン・バキリュウ・ソワカっ‼」

 私は真言を唱え、「気弾」を放つ為の「気」を溜める。

 ヤツは道を車が通って来るにも関わらず走り出し……そして飛び上がる。

 驚いて急停止した車の屋根に飛び乗り、更に、別の車の屋根に飛び移り……こちらに向って来た。

 どうなってる? 何者なんだ?

 だが、身体能力だけでは、私の「気弾」を躱せない。私の「気弾」は、昔のマンガや格闘ゲームのように、一直線に飛ぶのではなく、一度定めた目標を狙い軌道を変える。呪力の塊を相手に当てると言うよりも、むしろ「呪詛」の一種に近い。

 しかし、ヤツがある程度近付いた時に気付いた。ヤツは……かなり強力な「護符」を持っている。おそらく……あの防具付のジャケットそのものが「護符」だ。

「吽っ‼」

 「護符」に阻まれる可能性が高いが、一か八かだ。私は溜めた「気」を「気弾」に変え放った。

 私の「気弾」がヤツに着弾した時、「気弾」は砕け散り、ヤツの着ている防具付のジャケットに「田」「九」「厶」を合せた漢字が浮かび上がった。

 日蓮宗で使われる「鬼」の異体字で……その意味は「鬼子母神」。

 ヤツのジャケットに「護法」をかけた「誰か」の流派だけは判ったが……それが判ったとしても、この状況では大した意味は無い。

「何者だ?」

 ヤツは、私の目の前に飛び降りると、そう言った。

「悪いな。事情は言えん。すまんが覚悟してくれ」

 と言うより、奴らは「鉄砲玉にして操り人形」となった私に細かい事情を教えてはくれない。

 私は、呪術の焦点具を兼ねたハンマーを振り上げ……。

 何をされたのかは判らない。

 呪力の(たぐい)は感じなかった。

 振り降した瞬間、私の体は宙を舞っていた……。マズい……受け身が……。

 精神を集中し、頭の中に、私の守護尊である「金剛蔵王権現」を表わす梵字を思い浮かべる。

 「火事場の馬鹿力」を無理矢理引き出す術をかけ……左手を地面に付けて受け身の代りにする。

 しまった……力は一時的に強くなっているが……体が丈夫になった訳でも、骨や筋肉の構造が変った訳でもない。

 骨こそ折れていないようだが、私の左手・左肘・左肩は、あっさり脱臼した。

 更にマズい事に、痛みのせいで、呪術を使うのに必要な精神集中が出来なくなった。

「おい……何なら手当しようか?」

 私の相手は、呑気にそう言った。

「ふざけるなぁっ‼」

 私は、右手1つで大型ハンマーを振り回した。

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