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本能寺の敵  作者: 桜木覚
9/19

不見(みえず)の城塞

猿ヶ京の佐助がなにやら絵図に書き込みをしている。


「どうだ」

戻ってきた真田昌幸がほおかむりを外しながら尋ねた。

「どうもこうも」

佐助は筆を置くと、汗を拭った。

「鉄壁ですな。殿が示された寺社、商家、町家、ことごとく透破どもの詰所でござったよ」

「どんなもんじゃ」

子供の様に昌幸は目を輝かした。


絵図は平安京であった。

御所の南西に、大きく丸を打たれているのが、本能寺の位置。

そして、要所要所に、朱で数字が書き込まれている。

「ここを」

佐助が本能寺を指す。

「本丸と見立てた時、こちらが二の丸、こちらは三の丸ということですな。大手、搦め手は、こことここ、とすれば、こちらが櫓ということになります」

昌幸は相変わらずニヤニヤしている。

佐助が息をついた。

「羅生門から御所まで、都自体が一つの城じゃ。古来の兵法では、この都ほど、守に難く、攻めるに易い都はないと言われておりましたが、、なるほど、この様にすれば、蟻一匹入れませんな」

「無いのは塀と土塁のみよ」

「しかし、『本丸』の本能寺には立派な塀も土塁もありますな。十分です」

「考えても見よ。唐の国では、城とは街のことじゃ。この都は、唐の国の都に倣ったというではないか。ならば、城として使えないはずはないのだ」

「お見それいたした。そんなことに気がつくのは我が殿のほかにはおりますまい」

「ワシと、彼奴のほかには、な」

昌幸の顔に少し苦いものが走った。

「天下を取ろうともいう武将が、小姓だけを供に上洛する?馬鹿馬鹿しい。『そう見えている』だけのことだ」

「しかし、なぜこんなまどろこしいことをするのでしょうなあ」

「そこはそれ、童のころと心持ちは変わっておらぬということだろう」


普通の権力者であれば、大軍勢を引き連れて、示威行動をする。

信長も、上洛したてのころは、きらびやかな軍勢で都を睥睨した。

やがて彼が天下を握ったことを衆目が一致しだすと、信長は考えた ーと、真田昌幸はいうー 


天下人が、丸腰同然の風来坊姿で京の街中を歩いていたら「おもしろい」のではないか。


尾張随一の実力者の世継ぎであるにもかかわらず、茶筅髷と腰蓑で庶民の間を闊歩し、「うつけ」とよばれた少年時代と同じ、彼の遊びなのだと。


しかし、ただ遊んだのでは、本当のうつけである。

遊ぶための周到な準備がされていた。

軍勢が信長を狙ってきた場合は、入京するまでの主要地で異変を察知し、いち早く伝令する配置がなされていた。

他方、少数の暗殺団を送り込まれた場合に備え、それらの暗殺者の道となるであろう要所に透破が詰め、怪しいものがあれば捕殺する。

幾重にもわたるこの防衛機能を突破された場合も、最終防衛ラインとして、本能寺内に透破部隊が控え、四方から侵入を防ぐ。


「透破を使い慣れたものでなければ、こんな布陣はできぬでしょうな。天下でこれをなしうるものは、真田安房守くらいでしょう」

「であろう?」

昌幸は胸を張った。

「凡百の武将ならば、こんなに守りにくい街はない。しかし、我らならば、目には見えぬが、城にできるのよ」

「これをナワバリした明智日向守は、真田安房守に優るとも劣らん知恵者ということですな」

「褒められているのかなんだかよくわからんな」

昌幸は改めて朱の数字を確かめた。

「これが人数か」

「大雑把でござるがな。今は信長が入京いたした故、五割り増し、あるいは倍増と見た方が良かろう」

ここに10、ここに15、ここに5、などと数えてゆくと、その数はざっと500となった。

「一千騎と見ておけば良い訳か」


昌幸は真顔になった。

「佐助。決行は明日ぞ」

「承知」

音もなく、十人の男たちが控えていた。

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