表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本能寺の敵  作者: 桜木覚
4/19

西への準備

「草津の又八が死んだ」

出浦盛清が真田昌幸に告げた。碁盤を挟んでいる。

「ふむ」

昌幸の顔は能面のようだ。

「必死の仕事ゆえ、死ぬのは一人で良い、相方はいらぬと流れ者を拾っていったのが仇となった」

「信長や光秀はおろか、穴山にすら傷も負わせられずとは、無念だったろうな」

「最悪よ」

しばらく考えた昌幸が、じゃら、と石をつかんだ。

「佐助を呼ばねばならんか」

昌幸の言葉に出浦は驚きの表情を見せた。

「まて、今、信濃から佐助を外せば、上田の城も危ういぞ」


滝川一益の仕置きが粛々と進んでいるとはいえ、一旦タガが外れた甲斐・信濃、特に国人領主たちが元気なままの信濃は、少しでも「新しい主君」に自分の支配地を広く認めてもらうため、小競り合いが起きている。

大規模な合戦を起こしてしまうと織田家の懲罰の対象となり、逆に家の取り潰しに繋がってしまうので、必然として、昔ながらの謀略が息を吹き返した。

真田の草の者の中でも名を知られた、猿ヶ京の佐助は、その攻防戦の総指揮をとる重鎮だ。

「ここ数日のことだ。そればかりのことで、取られる城ならそれまでのこと」

「それはそうだが」

「それと、弁丸も一緒にな」

弁丸は、真田昌幸の次男で当年16。のちの真田幸村である。


安土。

「生け捕った透破は、ゼニで雇われた、流れの透破でありました」

源吾が言う。

「いずれの手のものかはわからぬということか」

光秀が首を捻る。

そこへ斎藤利三がやって来た。

「殿。昨日は難儀なことでありましたそうな」

「饗応役のことか」

「町の童まで噂しておりますぞ。面目を失った殿が、腹立ち紛れに腐れ魚を掘りに投げ捨てておった、と」

「まあ、見られておったのが、それだけで良かった。腐れ魚のおかげで、危うくわしの首が落ちるところであった。成敗してくれたわ」

斎藤利三は岐阜以来の股肱之臣である。そんな軽口で誤魔化されはしない。

「表沙汰にできぬのは承知の上。何がござった」

光秀は少し困ったような笑顔で利三を見つめた。

「聞くなと。しかし、いかに面目を失おうと、惑乱する殿ではござるまい」

「おぬしらが、それを知っておいてくれれば良い。人の口など七十五日じゃ」

それより、と話を振った。

「いよいよ、中国出陣よな。陣立ては整っておるか」

「万端でござる」

斎藤利三の差し出した陣割りを見て、光秀は少し難しい顔になった。

「これでは長陣はできぬな」

「羽柴様からの伝令は確かに、鉄壁の城ゆえ、どうしても上様の後陣がなければ落ちぬ、ということでありましたが、吾が手のものの調べでは、もはや熟柿のような状態と。着陣早々にも落ちますでしょう」

「高松城だけを見ればな」

光秀は、長い戦いになることを懸念していた。

「毛利輝元が出てくる」

確かに羽柴からは、「毛利の本隊の援軍近し」とあった。

「しかしそれは形だけのことでありましょう。清水宗治は毛利の外様。命がけで救う義理はございません」

「本当に、救援するつもりで来たとしたらどうなる。毛利輝元が、外様だからと言って見捨てぬ男であったら、どうなる。毛利が攻めかかってくるこちらの陣には上様がおるのだぞ」

「もしそうなれば、、、上様と、毛利との直接の戦」

「そうなれば大いくさだ。数年は帰ってこれなくなるかもしれぬ」

「備えまする」

「そうしてくれ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ