第98話「紡いできた教え②」
実はライムにも、村の人達の存在には、今までずっと疑問を感じていた節があった。
「そういう歴史があったのか! この島に住む人って、俺達の世界の人間と何が違うのかと思ってたけど……何ら変わりはない、元々は同じ世界に住む人間だったのですね!」
こくりと頷き、老師は島の歴史の続きを語る。
「未来を予測し、時空の歪みの被害を未然に防ぐのも我々の使命のひとつではあるのじゃが……世界中に視野を広げるとなると、我々の力だけでは手におえなくなる。
このままでは被害は増える一方……そこで我々は、島に住む人間達の手を借りることにしたのじゃ!」
ライムは塔の中で働く人間の姿、そしてこの天上階や下の階でも見た、電子機器の数々を思い浮かべる。
「なるほど。だから人間とナヴィ達が、この塔で共存しているのですね!
明らかに俺の世界で見た覚えのある、パソコンなどが塔の中にはあるなと思ってたけど……それも人間の力を借りることで手に入れられたわけですね!」
「さよう。もちろん性格など、人は選ばせてもらうが……人間達の知恵は大いに役にたった。
彼らのおかげもあって、時空の歪みによる被害を、随分と減らすことが可能となったのじゃ」
ナヴィは天上階にある、何も映っていない大きなモニターを指差した。
「これなんかまさにそうだね。画面をいくつも分割し、世界の色々な場所をこの塔から見渡してる。
下の階とも繋がってて、みんなで管理することができるんだ。
このモニターがない時代は、“これ”のみで世界を見渡すしか、手段がなかったからね!!」
そう言って、ナヴィは今度はモニター前にある、謎の巨大な水晶玉を指差す。
ずっとこの存在が気になって仕方がなかったライムが、ナヴィに質問した。
「これ、一体何なんだ? 中は真っ黒になってしまってるけど……」
「これはライム達のいる、別世界を映すもの──“世界を見渡す球体”
ここから僕達は、まるで望遠鏡を使って覗いているかのように、世界を見渡すことができるんだよ!
そして、これの効率化を計るために、人間達の知恵を借りて、巨大モニターと映像を共有させることが可能となっている!」
「へぇ~……こんな水晶の玉みたいなので、世界が見えるのか! 不思議なもんだね!! まるで魔法を使ってるみたいだ!!」
「うん、でももっとも今は……時の軸がラビ様によって止められてるから……
世界を見渡す球体にも、モニターにも、映像が映ることはないんだけどね」
なぜモニターにはノイズがはしり、世界を見渡す球体は真っ黒と化して、何も映らない状態になっていたのか。その理由もこれにて解決する。
ライムは想像を膨らませた。
「時の軸が動く本来なら、ここから世界を見渡すことができたのか! どんな感じか、俺も一目見てみたかったな!」
老師が島の歴史や塔の管理など、詳しく説明してくれたおかげで、ライム達は色々と知ることができた。
ここまでゆったりとした口調、優しい物腰で語っていた老師。
しかし、突如として老師の表情が変わる。
「これまでの出来事、今話していたものは、すべて自然に発生してしまった時空の歪みによるもの……だが、時空の歪みを人工的に生み出すものが現れた!!」
「それは……未来転送装置を作り上げた──キリシマ博士のことですね?」
「うむ。ラビがずっと危惧していたことは、このことだったのじゃな……
その危機のために、私は時を止めることで生き永らえていたというのに……
肝心なところで目を覚まさず、寝たままとは……
私も老いたものよ。元時の支配者として失格じゃ……!!」




