第95話「天上階大広間①」
ライム達は事件のすべてを解決に導くために手を尽くすつもりだが、現状は完全に手詰まり状態に陥っていた。
この嫌な流れが漂うタイミングで、初代・時の支配者こと、老師様が長い眠りから目を覚ます。
ナヴィ達は急いで、老師様のいる天上階へと向かう。
「老師様なら──もしかしたら何か分かるかもしれない!!
ライム、ミサキ! いっしょに老師様のもとへ行こう!!」
カコイマミライ
~時を刻まない島~
第95話
“天上階大広間”
牢屋の中にいるキリシマ博士に一旦別れを告げ、ナヴィはエレベーターを起動させる。至急天上階へと向かった。
天上階とは、塔の上ることのできる範囲の、最上階にあたる部分である。
実はこの時の塔──てっぺんはない。
塔の真上には、おびただしい数の分厚い雲が常に存在しており、その雲を境に途切れてしまっているのだ。
雲より上は、別世界──即ち、ライム達の世界に繋がっている。解りやすく言えば、ワープだ。
よって、天上階とは決して塔の頂上ではない。上れる範囲の最上階なのである。
そういった構造である、時の塔のエレベーターを上る最中。
ナヴィはこんなにも親身になって考えてくれる、ライムとミサキに感謝の言葉を述べていた。
「二人ともありがとね。まるで自分達のことのように考えてくれて。これは時の支配者、僕やこの塔の者達の問題なのに……」
ナヴィはそう言うが、とてもじゃないけれど、ライムには自分とは無関係な話だとは思えない。
「何言ってるんだよ。元はといえば、元凶を作ったのは博士……俺の親父だ!! そう思うと、俺にも責任はあるよ!!」
ミサキにはライムのような直接的な理由はない。だが、ここに来て放っておくわけにもいかないだろう。
「私は解放軍の消滅と、自分のペア探しが本来の旅の目的だったけど……乗りかかった船だしね! 私もナヴィちゃんの力になるために手伝うよ!!」
ナヴィは涙が溢れそうなくらいに、二人の気持ちが嬉しかった。
「ありがとう……本当にありがとう!! 二人とも!!」
ナヴィは泣きたい気持ちをぐっと堪えた。これから老師様に会うというのに、泣き顔は見せられない。すぐに気持ちを切り替えた。
そして、ナヴィは神妙な面持ちで、二人にある事実を告げる。
「天上階にいるのは老師様だけではない……僕の兄、ラビ様もそこにはいる……驚きそうだから、先に言っとくね!」
聞いていた話と違う事柄に、ライムは呆気にとられた。
散々、ナヴィの兄は時を止めて命を落とした──そう聞いていたからだ。
不思議に思ったライムは真相を尋ねる。
「えっ……ナヴィのお兄ちゃんって、時を止めて亡くなったんじゃなかったのか?」
「やっぱり勘違いしてるよね……ラビ様はまだ死んではいない! 生きているんだ! まぁ上に行けば、その意味も分かることだよ」
ナヴィが意味深な発言をしたところで、エレベーターの扉が開く。どうやら天上階へと着いたようだ。
エレベーターを降りて、大きな広間に出た矢先
……
ライムの目に飛び込んできたものは、広間の大部分を占める、巨大モニターだった。
(でかっ!! モニターか!? またここにも島にはないような機器があるのか!)
ライムは驚きながも、そのモニターに目を向ける。
すると、モニターの画面にはノイズがはしり、何も映っていないことに気が付く。
(これだけ大きなモニターなのに、何も映ってないのか……故障かな?)
そして、ライムが次に気づいたのが、その巨大モニターとは別のもうひとつの大きな物体だ。
それは体の数倍の大きさがあり、水晶玉のような球体の形をしている。
(何だろこの球……これも何かが映るものなのか……?)
この水晶玉のような物も、特殊な形をしたモニターなのだろうか?
何かを映し出しそうな気配はあるが、透明なはずの水晶玉の中は、真っ暗で何も見えてこない。
どうもモニター同様に、故障してしまっているように思える。
そんな巨大モニターと、謎の球体に、ライムは気を取られていたが……
どうやらミサキの方は、別のものに関心がいっていたようだ。
ある存在に気づき、ミサキは驚いて腰を抜かした。
「──!!! び、びっくりした!! 置物かと思っちゃった……」
ミサキの声のする方に、ライムは今度は目を向ける。
すると、そこにいたのは置物なんかではなく──“あの”人物だった。
あの人物とは──ナヴィのようなウサギの姿で、服装もナヴィにそっくりである。
背は細身で高く、顔は端整な作りに思える。
しかし、その背の高いウサギ……
目を瞑り、まったく動くこともなければ、息の漏れる音すら聞こえない……
これではミサキが置物と間違えてしまうのも、分かる気がする。
怒った口調で、ナヴィがこの人物の正体を明かした。
「置物とは失礼な!! この方だよ。僕の兄で、先代の時の支配者──ラビ様は!!」
ミサキは随分と無礼を働いていたようだ。
この人物こそが、先代、時の支配者──“ラビ・ホワイト”だったのだ。




