第93話「核心②」
丁寧なナヴィの説明により、ライムもようやく意味を理解する。
「──あっ! そうか。もし俺が死んでしまっていたのなら、未来に飛ばされても俺の存在は一人しか残らない……
それならルールには引っ掛からず、未来でそのまま生きることができたはず……だったらなぜ俺はこの島にいるんだ?」
ライムは困惑するも、ナヴィはある推測を立てる。
「それはきっと転送装置が正式に作動しなかったためだろう。装置の充填時間は不十分だった……不具合が起きたんだ!
未来は無数に存在すると言ったよね? だからライムが死を迎えるはずの未来もあれば、普通に生きている未来もある……色んなパターンが存在するんだ!
装置は正常に働かず、本来迎えるはずの未来とは、また別の未来の世界にライムは飛んだんだよ!!」
一説には『人の寿命はすでに決まっている』
そのような説も飛び交うが、その説は完全に否定された。
生きる未来や、死を迎える未来……いくつもの未来がある。
時の軸が、どの道を辿り、どの道が選択されるか……
人の生き死にも、すべてはそこに左右されるのだ。
また新たな未来の発見に、時の研究者であるキリシマ博士は驚かされる。
「ライムが生きていた世界線も存在したとは……そうなれば、私が視た未来も──もしかしたら実現しなかった可能性もあるのか?」
そんな博士の問いに、ナヴィは少し険しい表情で答えた。
「それはどうだろうね……あなたの作った装置は、実に性能が高い! 誤作動を起こさなければ、翌日に設定して転送させた物は、きちんと同じ時の流れに乗っかって、次の日にその物はしっかり存在している。
それを考えると、直近の2日後の未来というのは、変えることは難しかったかもしれないね……」
「そうか……やはりライムの死を防ぐことは難しかったか……」
落胆する博士に、ナヴィは励ましの意味も込めて、こう言葉をかけた。
「確かに難しかったかもしれないけど……決して悲観することはない!
未来は無限の数ほど存在すると同時に、それは無限の可能性を秘めているということになるんだから!!
未来には無限の可能性があるんだよ!!」
それを聞いたライムの体は突然、全身に鳥肌が立ち、身震いした。
(なんだろ……今のナヴィの言葉、どこかで耳にしたことがあるような……)
ライムはナヴィをぼーっと見つめていた。
何気なく言ったナヴィの言葉に、ライムは不思議と親近感を覚える。
なぜかその言葉は、やたらとライムの耳に残り続けて、脳内で何度も同じ言葉がリピートされていた。
カコイマミライ
~時を刻まない島~
第93話
“核心”
キリシマ博士の事件の話を聞いて、もしかしたらこう思う者がいるかもしれない。
ナヴィの兄、先代・時の支配者が博士の前に現れなければ、博士は装置を暴走させずに済んだのではないか──と。
確かに、その通りだ。
もしあの時、博士がウサギの幻に出くわさなければ、部屋の外へと出て、ライムに電話をするだけで終わった話だろう。
しかし、あの事件がなくても、博士の実験により、生命あるものの転送は近々行われる予定だった。
異世界に飛ばされる犠牲者は、どのみち生まれてしまう……ただ、あのような悲劇は防げたはずだ。
だが、よく考えてみてほしい。
時の軸を止めても、未来は動き続ける。
装置はすでに完成済み。
未来は無限に広がり続けてしまう……
すると、未来のどこかで、必ず似たような出来事は起こるだろう。
遅かれ早かれ、あのような事件はどこかで起きてしまうことだったのだ。




