第92話「核心①」
未来転送装置の暴走──
事件の全貌を語ったキリシマ博士は、人としての過ちを犯したことを謝罪した。
「私がこうして、この島にいる理由も、ライムやミサキちゃんがここにいる理由も──すべて私の責任なんだ!! 申し訳ない!!!」
博士は頭をべったりと床につけ、土下座をしながら弁解する。
「私はただライムを助けたい一心で……それだけだったんだ!! こんな大事に……大量の人を巻き込むとは思ってもみなかった。
この島に辿り着いて、数々の異界人を見た時に、すぐにこれは私の作った装置のせいだと気づいたよ! 更に私のペアは、あのキリシマだ……
罪悪感を感じた私は、何度自ら命を絶とうと思ったことか……」
以前、ライムも似たようなことを言っていた。
自分は死んだ方がいいのではないかと……
そうすればキリシマは、この島から消える。
さすがは親子。
こういう考え方は似ているようだ。
苦しい顔を浮かべ、博士は話を続けた。
「だが、もしかしたら私同様に、ライムもこの島に来ているかもしれない……そう思うと、ライムの顔を一目見るまでは死んでも死にきれない思いだった!! 本当にすまない……申し訳ないことをした!!」
ライムはここで納得する。
キリシマ博士が、この島で再会を果たした時に見せた反応の意味を。
(博士は俺がこの島に来ているであろうことが分かっていた……だから俺を見た時に『無事だったんだな』そう、言っていたのか!!)
普通なら研究員オオヤマのように
『どうしてこんなところにいるんだ?』
そんな反応を見せるはずだが、博士はライムがこの島に来るであろうことを予測していた。
そのために博士の口から、そんな言葉が出ていたのであった。
ライムがしばし博士を見つめるも、その間、博士が頭をあげることはない。
博士が反省していることは、ライム達にも十分に伝わっている。
しかし、博士の行いは決して許されることではない。
けれども、以前は冷酷な態度を取ったナヴィですら、今回ばかりは博士に優しい言葉をかけた。
「顔をあげるんだ。キリシマ博士。確かにあなたの行為は、ルールに反する大罪だ。
だけど、今はすべてを話してくれたことに礼を言うよ。包み隠さず話してくれてありがとう。博士」
ナヴィの優しさに、博士は心を打たれた。
そっと顔をあげる。
「ナヴィ……」
「土下座なんて求めてないよ。よしてくれ。それに、まだ話は終わってないんだろう?」
「あぁ……まだ聞いて欲しいこともある。こちらこそ感謝しなければならないな。ありがとう……」
博士はナヴィ達に感謝の言葉を述べた。
そして、博士はナヴィに言われた通り、そっと足を崩し、自分が時空の歪みに飲まれた後について語った。
「あれだけ装置は暴れていたんだ。正直、装置は壊れてしまったかと思ったが……ライムが生きてここにいるということは、私の設定した座標の2日後の朝に、装置は定刻通り動いたことになる。
私が設定した転送先は、3日後の未来……その未来にライムは飛んだ……」
ライムは博士の言葉と共に、忘れかけていた当時の記憶を呼び覚ます。
(そうだ! 俺は寝坊して、学校に遅刻しそうになっていた……急いで学校に向かってたところで、時空の歪みに飲み込まれたんだ。あの後……本当なら俺は交通事故で死ぬはずだったってことなのか……?)
ライムは記憶を手繰りよせながら考え込んでいる。
そんな中で、キリシマ博士はナヴィに疑問を投げ掛けた。
「ナヴィ、君が話してくれたタイムパラドックスのような『同一人物は存在してはならない』
このルールなのだが……今この異世界にライムがいることに、矛盾が生じているような気がするんだ。どう思う? 辻褄が合わないような……」
博士の言う矛盾に、ライムとミサキはどうやら気づいてない。
それでも時の支配者ナヴィには、しっかりと意味は伝わっているようだ。
「ライムは本来、2日後の朝に死を迎えるはずだった。そして博士が設定した転送先は3日後……
それならば3日後の未来に、ライムが“二人”存在していたことはおかしいって話だね!」




