第91話「3日後の未来③」
学校にいる時間ではあるが、教室にいるのか? それとも校庭にいるのか……
仮にライムの居場所が詳しく分かったとしても、これでは他の生徒まで巻き込んでしまう……
私は必死で考えた。
ライムを助けたい……その一心で。
するとその思いが実ったのか、ひとつのある場所が、ふっと私の頭の中に降りてきた。
それは未来で視た映像での、研究員の一言だ。
『どうやら朝の学校に向かってる途中に、車に跳ねられたらしい。遅刻間際で急いでたみたいだ。 チャイムが鳴る直前の、学校手前の交差点での事故……あと少しで着くところなのに、不運としかいいようがないよな』
私は閃いた。
(これだ!! これならライムの居場所も、おおよその時間も把握できる!!)
急いで私は座標を設定した。転送させるのは──
2日後の朝の学校手前の交差点。時間はチャイムが鳴る8時半の数分前。
場所と時間は、これで完璧だ。あとは装置のボタンを押すだけ……
装置から警告メッセージが流れる。
“まだ充填時間が十分に満たされておりません。危険が及ぶ可能性があります。それでも起動させますか?”
私の心は揺らいだ。しかし、ライムの笑顔が脳裏に浮かぶと……自然とボタンに手が伸びいていた。
私は装置の起動ボタンを──押した。
幸運にも、正常に装置は作動する。
『や、やった! 無事動いたぞ……!!』
ウサギの幻は私を止めることができず、うなだれていた。
『キリシマ博士……あなたは何てことを……』
正常に装置は動いたと思われたその時──装置から警告音が鳴り響く。
“WARNING WARNING!! ただちに装置の電源をオフにしてください。ただちに装置の電源をオフにしてください。”
『な、なんだ……やはり誤作動が……
(しかし、今装置を止めれば、ライムを救えないかもしれない……誰が止めるものか!!)』
ウサギはすべてを察したかのように、そっと目を瞑った。
(やはりこうなってしまったか……すまない。あとは頼んだぞ……ナヴィ!!)
そして次の瞬間、ウサギは私の前から姿を消した…………
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度々話に出てきたウサギの正体に、ナヴィは確信も持つ。
「間違いないよ! きっとそのウサギの幻影は僕の兄、ラビ・ホワイト様だよ!! 装置の使用を阻止しようと、博士の前に現れたんだ!!」
ラビ・ホワイトと思われる人物が、ここで博士の前から消えた……
それを聞いたミサキが察する。
「きっとこの瞬間ね。時の支配者が、時の軸、“今”を止めたのは!! これ以上被害を拡大させないようにしたのね!」
ほぼ話の全容は明らかになったが、ライムは研究員オオヤマの存在が心残りだった。
博士に最後まで話をしてもらうことを求めた。
「それから先の記憶はまだあるのか? 装置が暴走した、その後の記憶は……」
「あぁ、この際だ。全部、最後まで話そう」
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私はとうとう装置のボタンを押した。
何事もなく、事なきを得たと思われたが、装置から警告音が鳴り響く。
その音に気づき、外にいた研究員が部屋の中へと入ってきた。
『この音は……装置の警告音!? キリシマ博士が中で何かしているのか……? 大丈夫ですか!? 博士!! 中に入りますよ!!』
今のキリシマ博士の記憶からは消えてしまっているが、この時、部屋の中に一目散に飛び込んだのが──研究員オオヤマだ。
オオヤマはたった今起きている、異常な事態をすぐさま把握した。
『は、博士……これは一体……あなたは一体何を……』
『オオヤマ! すまない……充填時間が不十分にも関わらず、装置を起動させてしまった。私は大変なことをしてしまったのかもしれない……私はただ、いつものように未来を視ていただけなんだ……
そこで、私は……』
キリシマ博士の目は涙ぐんでいた。
オオヤマはその涙の理由を知りたかったが、まずは装置を止めるのが先決だ。このままでは危険が及ぶ。
『博士? 未来に何があったというのですか? こんな危険な行為を犯してまで……いや、今はそれどころではない!! まずは装置の電源を切りましょう!! すべての話はそれからです!!』
オオヤマに装置の電源を切られては困る……
事情を話せば分かってくれるかもしれない……
博士はオオヤマにすべてを、ライムの死を語ろうとした。
──しかし、その時。
オオヤマの前に突如、黒い空間が現れる。
『!!! こ、これはタイムゲート(時空の歪み)!! なぜこんなところに……うわっ!! だめだ、吸い込まれる……!!』
この時現れた時空の歪みに、オオヤマは飲み込まれ未来へと飛ばされてしまう。
ここで、キリシマ博士の記憶からオオヤマの存在が消えた……
装置は誤作動を起こし続け、完全に暴走していた。
『くそっ、どうなっている……至るところにタイムゲート(時空の歪み)が現れているのか!? 私はそんな設定をした覚えはないぞ!!』
次々に時空の歪みは発生している。
この研究所一帯は時空の歪みで埋め尽くされていった。
研究所は完全に飲み込まれた。研究所内の研究員、全員が時空の歪みに引き込まれてしまった…………
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「私が記憶しているのはここまで……あとは君達のが詳しいだろう。私がこうして、この島にいる理由も、ライムやミサキちゃんがここにいる理由も──すべて私の責任なんだ!! 申し訳ない!!!」
事件のすべてを語ったキリシマ博士は、ライム達の前で土下座をした。
謝っても“過去”は変わることはない……
時の研究の権威、キリシマ博士なら、その事実はよく知っていることだろう。
だが、そういう問題ではない。
キリシマ博士は研究者としてではなく、一人の人間の行った過ちとして──
心の底から謝罪した。
第91話 “3日後の未来” 完




