第89話「3日後の未来①」
キリシマ博士は未来転送装置が完成に至るまでの経緯、それから行った実験について、順を追って話してくれた。
しかし、事件の真相には中々辿り着かない。ライムが待ちきれず、話を急かした。
「博士、だいたいの流れは掴めたんだけど……肝心の事件の話が出てこない。その事件の話をしてくれないか?」
「そ、そうだったな……すまないライム。一から話をしていたら、ついつい長くなってしまった。その後の話に関係あるんだ。もう少し待っててくれ」
ナヴィに悪魔の装置を作ったと言われ、ひどくショックを受けていたキリシマ博士は、ライムの声に応じて顔をあげた。
今は落ち込んでいる場合ではない……
博士は話の続きを再び語り始めた。
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我々は未来を視ることに成功した。だが、無数に存在する未来について、疑問をもったのは私しかいなかった。
様々な実験を成功させ、残るは生命の宿るものでの転送になっていく。
ここからは慎重に進めざるをえない……
そう考え、私は部下達に休暇を与えることにした。
装置ができてから、多忙な日々を送っていたため、疲れがでてるはずだ。
ここらで一度リフレッシュするのも悪くない。
すると、その意見を皆は快く受け入れてくれた。
研究は一旦中止し、一週間の休暇を取ることになった。
しかし、私は無数の未来のことが、気になって気になって仕方がない……
私は一人研究所に残り、装置のある部屋でカメラでの未来を視る研究を続けていったのだ。
この実験もすでにグレードアップしており、翌日の未来だけではなく、2日目、3日目の未来を視ることが可能となっていた。
その3日先の未来を見続けていた、ある時──衝撃の未来が私を待っていたんだ…………
カコイマミライ
~時を刻まない島~
第89話
“3日後の未来”
私が視ている映像の研究所には、前日からまた元気に働く皆の姿が映し出されていた。
休みもとれてゆっくりできたのか、いつに増してエネルギッシュに見える。
そして問題が起きたのは、研究再開の翌日の出来事だ……
いつもの出勤の時間になっても、研究所内には誰一人現れない。
一週間の休暇を取ったばかりなのに、すぐに休みに入るなんて、不自然に感じていた。
『どうした!? なぜ誰も来ない。何が起きたんだ?』
私は一時も離さず、監視を続けた。
何が起きたのか、見逃すわけにはいかない……
今までは多少の仮眠を挟みながら視ていたものの、この時ばかりは一睡もせずに監視をした。
だが、一日中張り付いて視ていても、ついにその日は、研究所には誰一人として現れることはなかった。
そして、翌日。
出勤の時間になると、皆いつものように研究所にやって来る。
『たまたま昨日は休みだったのか……?』
一日たって皆現れたことに、私は安堵したが、連続での休みに違和感は残る……
それにどことなく、研究員達に元気がない。やはり何かがおかしい気がする。
くまなく研究所内を見ていた私は、そこで更なる異変に気付く。
それは、どこを見渡しても自分の姿が見当たらかったことだ。
今まで一度たりとも、そんなことはありえなかった。
責任者の私抜きで研究を行うなんて……これは絶対何かの事態が起きているはずだ。
『私がいない……? どうなっている? 私の身に何かあったのか?』
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ここでキリシマ博士の話が急に止まった。
顔を見ると、冷や汗を大量にかき、何やら険しい顔を浮かべている。
「博士……?」
ナヴィがキリシマ博士の体調を心配したところで、博士はパッとライムの顔を見た。
「ライム……これから私が言うこと……心して聞いておけよ?」
「えっ……? は、はい……」
キリシマ博士はライムに釘をさした後、数秒間沈黙を貫いた。
そして、ごくりと生唾を飲み、博士はその衝撃の事実を告げた。
「ライム……おまえは3日後…………
死ぬことになっていたんだよ」
「!!!」
全員の体が一瞬にして固まった。
特に張本人のライムは、驚きを隠せない。
「お、俺が死ぬ……? ど、どういうことなんだ……」
博士は下を向き、ライムから目を反らした。
「一日研究所を空けた部下達は、暗い顔しながらこう言っていたんだよ……」
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『まさか……キリシマ博士の息子さんが、交通事故で亡くなってしまうとはね……』
『あぁ……まだ高校生で若いのに、可哀想に……どうやら朝の学校に向かってる途中に、車に跳ねられたらしい。遅刻間際で急いでたみたいだ。
チャイムが鳴る直前の、学校手前の交差点での事故……あと少しで着くところなのに、不運としかいいようがないよな』
信じられないことが起きた……
ライムが交通事故で死ぬ……?
この未来の者達の会話は、前日の朝に起きた出来事の話だ。
ライムが亡くなった日は、急遽、研究中止となっていたようだった。
そしてこの日、私がいないのは、ライムの葬儀等に忙しいためで、私のみが休みを取っていた。
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