第87話「フューチャープロジェクト②」
“未来転送装置”
この装置の暴走により、ライム達や、キリシマ博士本人をも巻き込む大事件へと発展するわけだが……
その事件に至るまでに何があったのか。博士は語る。
「未来に行きたいと思う人間は山ほどいるだろう! もちろん私もその一人だ。けれども、いきなり人体や生物の実験をするのには不安がある。まずは生命の宿らない、物質から転送を開始した…………」
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『見ろ! これは私達が昨日転送したゴムボールだ! 転送座標もばっちり、狂いはない。ほら、ここに私がサインした日付、時間が印されてる! 間違いない!! 我々の研究は成功だ!!』
未来転送装置の実験が始まった。
まずは物質から。形あるものならなんでもよかったが、紙のようなペラペラしたものでなく、球体の形をしっかりと留め、なおかつ軽い物質のゴムボールから始めた。
更にそのボールに転送する瞬間の日付と時刻を書き記すことで、他のボールとは区別がつくようにした。
転送位置は座標を決めることで場所の変更も可能だったが、まずは簡単にということで、明日の10時に研究所内の、とある部屋へ転送することになった。
そして翌日、研究員総出でその瞬間を待つと、時空の歪みの出現と共に、私が昨日転送したゴムボールが現れたのだ。
研究の成功に我々は歓喜した。
しかし、この程度でこのプロジェクトは終わらない。ようやくスタートしたに等しい。
次に重量のある巨大な物質や、研究所から少し離れた座標への転送。
時空の歪み自体を、装置から離れた場所に発生させるなど、実験の難易度をあげていった。
いずれもすべてが成功を収め、いよいよ次は生命の実験に取りかかろうとした頃。
研究所の誰が言ったかは忘れたが、こんな提案を私はされた。
『転送した物質にカメラを取り付け、その映像をリアルタイムで見るのはどうだろうか?』
これは名案だった。やはり命あるものの転送は、リスクが生じる……
しかし、この方法ならば何の問題もない。何のリスクも生まず、未来を『視る』ことができるのだ。
早速私達はカメラを取りつけ、転送を開始する。撮影するため、もちろん研究所内に送ることになった。
視るのは明日の研究所の様子。1日後に起きる出来事だ。
録画状態をオンのまま、そのまま転送装置にカメラを送る。するとどうだ…………
『な、なんだ……真っ暗で何も見えないな。やはり映像機器をタイムゲート(時空の歪み)に送るのは不可能なことだったのか……?』
実験は失敗に終わった──そう思われた矢先、突然カメラは映像をとらえ、見慣れた研究所の景色が映し出されたのだ。
『おぉっ! 映ったぞ!! すごい……これが未来の映像か!?』
私達は未来を視ることに成功した。
我々の研究が報われ、どんどん形になっていく。研究員は皆、大いに喜んだ。
しかし、次の瞬間──私に衝撃が走った!!
明日の研究所内が映されているため、当然研究員達が映像に入りこんでくる。
すると、その未来の研究員はこう言っていたんだ…………
『ん? なんだこのカメラは? こんなもの、さっきまであったか?』
私はこの言葉に、とてつもない衝撃を受けた……
そのカメラを見つけた研究員は、次々と他の研究員を呼び、カメラの周りは一斉に人で囲まれる。
そして研究員は話し合いの結果、このカメラは過去の我々達が未来へ転送したものだと結論づける。
もちろん、その結論は正しいのだが……
私が抱いた疑問に、他の研究員は誰一人気づいてない。
皆、研究の成功に酔いしれ、笑顔でその映像を見続けているのだ。
(なぜだ……誰一人疑問に思わないのか? 未来の彼の言葉に、誰も疑問を……)
私は疑問を抱いたまま、その思いを誰にも打ち明けられずにいた。
そして、そのまま翌日を迎える。昨日カメラを転送した時刻が、実際に訪れるわけだ。
時空の歪みが現れ、私達が転送したカメラが出現する。研究員はデジャブを見るようにして驚いていた。
『おっ! 来た来た! すごいな。昨日見た映像とまるで同じだ!!』
我々が昨日の段階で転送していたカメラの映像は、ずっとオンのままだったため、今新たに来たカメラの映像とは違う映像が流れている……
我々の見る映像は、そのまま明日の未来を映しているのだろう。
となると、今現れたカメラを見ている、昨日の我々がいるということになるのか……?
一瞬、頭が混乱しそうになったが、それよりも私が気になったのは、先程の研究員の言葉だ。
彼の発言により、私が抱いていた疑惑は確信へと変わっていたのだ。
(やはりそうだ……我々が見た映像、シチュエーションは同じでも…… 研究員の放つ“言葉”が違う!! 未来が違っていた……? いや、きっとそうじゃない……)




