第84話「最下層特別独房室①」
ライムは塔の中で、ある人物との再会を果たす。
その人物とは、アーサイ村で別れた、キリシマ博士の部下の“オオヤマ”だ。
ライムはオオヤマが無事に、時の塔に辿り着いていたことに安堵する。
「よかった! 無事だったんですね、オオヤマさん! あれからどうなったかと、心配してたんですよ!」
「あぁ、君達に言われた通り、ちゃんと時の塔に来てたよ! 私が時の研究をしていたことを伝えると、時の民達は塔の中へと入れてくれてね。ただ……そのあとが大変だったんだ。一度私は、牢屋へと入れられてしまって……」
想像だにしないオオヤマの発言に、ライムは愕然した。
「えぇ!! 捕まったってこと!? 解放軍でもないオオヤマさんがどうして……」
「確かに私はこの島で悪さはしてないが……私も博士といっしょに未来転送装置を作った、その一人だ。この塔の者達からしたら、私も犯罪者のうちの一人なのだろう」
この事件の騒動の発端を、時の塔にてオオヤマは知ることとなる。
もちろんオオヤマに悪気はない。自分が信じる、時の研究をしていたまでだ。
だが、結果的にそのオオヤマが携わった装置が、キリシマの手によって、この島全体を巻き込む大問題へと発展してしまっていたわけである。
オオヤマは罪に問われるか? それとも、悪いのはすべてキリシマなのか──これは非常に難しい問題だ。
オオヤマは苦笑いしながら、ここにまで至る経緯を語った。
「しばらく私は牢屋に閉じ込められたが、なんとか塔の者達に、私は悪い人間ではないと言うことを伝え、私が知る限りの装置の情報提供と、この塔で働く事を条件に、牢屋から釈放されることができたんだ!」
牢屋に入れられることまでは想定できなかったナヴィは、オオヤマに負い目を感じていた。
「それはオオヤマさん、悪いことをしたね……ここの者達が、失礼をした! この塔の責任者として謝るよ! 本当に申し訳ない。
でも、オオヤマさんが嫌でなければ、ぜひ力を僕達に貸して欲しい。オオヤマさんの知恵は必ず役に立つ! きっといい方向へと導いてくれるはずだ!!」
ナヴィは詫び言を述べながらも、恥を忍んでオオヤマに協力を求めた。なんとも図々しいことだろう。
だが、オオヤマは嫌な顔何ひとつせず、快諾する。
「そんな気にしないでくれ! 今はもう大丈夫だ! それどころか、私は少しでも罪を償えるよう、この島の役に立てるように、自分はやるべきだと思っている。 この塔にしっかりと仕えるように、私は頑張ろうと誓ったんだ!」
オオヤマは、この島に起きる事件の大本が自分達にあったことを知り、ひどくショックを受けていた。
しかし、オオヤマはすぐに気持ちを切り替え、我が身を捧げることを決める。
落ち込んでいる場合ではない。他に自分にできることが、もっとたくさんあるはずだ。オオヤマにはそれが分かっていた。
そんなひたむきなオオヤマの姿勢に、ナヴィは心底感謝した。
「オオヤマさん……ありがとう! こちらとしても、すごく助かるよ!」
オオヤマはやる気にみなぎり、ナヴィに笑顔を見せていた。
だが、そうしたのも束の間、オオヤマの顔は強張り、言葉に覇気が失くなる。
「私のことは、もう気にしなくても平気なんだけど……ライム君。さっき私は会って、直接話したよ。キリシマ博士に……」
「──!! そ、そうか。会ったんだね……博士に……」
どうやらオオヤマは先程、住人達に半ば強引に連れていかれた博士と、塔内で鉢合わせしたようだ。
オオヤマが暗い顔を見せた理由が、ライム達には言わずとも分かった。
「君達の言う通りだった……博士は私のことを、覚えてなんかいなかった……少し寂しい気持ちもあるけど、そんなことはどうだっていい!! 君達だけでも、分かってあげて欲しいんだ。
本当にあの人は、悪い人なんかではない!! あの解放軍キリシマとは、絶対に違う!! それだけはどうしても伝えたくて……」
よほどオオヤマはキリシマ博士のことを尊敬しているのだろう。血相を変えてまで、熱弁している。
ナヴィはオオヤマの想いを汲み取り、強い気持ちを持って返答した。
「大丈夫。安心して、オオヤマさん。博士に悪いことはするつもりはないよ! それに、以前にも言ったように、博士……キリシマは……必ず僕達がなんとかする!! だから僕達にすべてを委ねてくれ!!」
「あぁ、分かった。私は君達を信じるよ! お願いだ。頼んだよ!!」
ナヴィは大きく頷いた。
そして、オオヤマにナヴィ達は別れを告げる。
「それじゃあ、僕達は博士のところに行くから!
また会おう! オオヤマさん!」
カコイマミライ
~時を刻まない島~
第84話
“最下層特別独房室”
オオヤマとの再会もあとにして、ナヴィ達は本題へと移る。
オオヤマの想いも乗せて、キリシマ博士のもとへと一同は向かう。
「二人とも、またこちらに来てくれないかな?
今度こそ──博士から事件の真相を聞こう!」
ナヴィは再び二人を呼んだ。
ナヴィが塔の中心部に立ち、手招きをしている。
二人は塔の更に奥へと進み、ナヴィのいる場所まで歩み寄った。
特にナヴィの立つ場所には何もない。ミサキが不思議そうに首を傾げる。
「ここがちょうど塔の真ん中かしら? でも、特にここには何もないけど……ここに呼んでどうしたの? ナヴィちゃん」
「まぁ……見ててよ。危ないから、その場を動かないでね!」
「危ない……?」
ナヴィの意味深な発言にライムがキョトンとしていると、何もないはずの場所の床に突然、サークルを作るようにして線が描かれた。
すると今度は、そのサークルを囲むようにして壁が生まれ、ライム達の体は筒状に包まれる。
そして、おもむろに床が“下”へと動き出す。思わずライムは声をあげた。
「うわっ! なんだ! 床が動いたぞ!? もしかして……下に移動してる?」
深刻なオオヤマの表情を目の当たりにし、落ちてしまっていたテンションを取り戻そうとした思いがナヴィにあったのだろう。
慌てるライムの様を、ナヴィはわざと声を出して笑った。
「はは! ライム、心配しないで! ただのエレベーターだよ!」
ライムの知っているエレベーターとは随分勝手が違う……やはり塔の内部は、非現実的なもので溢れかえっている。




