表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/136

第83話「非現実的空間②」

 それはナヴィの声だった。いつものナヴィとは違い、堂々とした立ち振舞いである。


 そのナヴィの威勢のいい声を聞き、奥から数名の人物がぞろぞろと、こちらへとやって来る。


 

「ナヴィ様!! 帰られたのですね! お帰りなさいませ!!」



「キリシマのペアを連れに!? 何てことだ!! さすがはナヴィ様!! 素晴らしいご活躍です!!」



 塔の中にはナヴィの仲間がいると聞いていたライムは、勝手にナヴィのようなウサギの格好をした人物がいるのかと想像していた。

 だが、見た目は至って普通のライム達と変わらない人の姿である。


 それにまず驚いたのと同時に、ナヴィが偉い人だったという事実をすっかりライムは忘れており、へこへことナヴィに頭を下げる大人達が、何だか滑稽に見えてしまっていた。

 恥ずかしそうにナヴィは咳払いをする。



「お、おほん! おだてなくていいからさ。キリシマを“例の部屋”へと連れて行ってくれ! それと雨で濡れてしまった。客人達にタオルを頼む」



「はっ! かしこまりました!」



 ナヴィの号令と共に、塔の住人はてきぱきと動き出す。

 手始めに、数人がかかりでキリシマ博士を塔の住人達は捕らえた。少々手荒れな対応にも見受けられ、その扱いの悪さに博士は声を荒らげる。



「な、なんだ! 何をする!! 痛いじゃないか。私は抵抗するつもりはない! もっと丁重に接してくれたまえ!」



「黙れ!! キリシマ!! おとなしく我々についてこい!!」



 キリシマ博士の人格を、塔の者達は知らない。当たりが厳しくなるのも無理はないのだろう。

 博士は引きずられるようにして、どこかへと連れていかれてしまった。


 その光景にライムとミサキが唖然としていると、別の者がライム達の前に現れ、タオルを差し出す。博士とは打って変わって、ライム達には丁寧な対応だ。



「さぁ、これで体を拭いてください」



「あ、ありがとう……」



 ライムとミサキはタオルを受け取り、濡れた体を拭く。

 そうしてる間に、ナヴィはまた別の者を呼び込んだ。



「それと救護班! 二人は解放軍と戦い、怪我をしている。治療を頼む」



 塔の中の住人にも色々役割があるのだろう。

 ライムには男の住人、ミサキには女性の住人が現れ、治療を施す。

 人前を考慮してか、ミサキは別の場所へと連れていかれ、二人は別々に手当てを行った。



「何だかすみません。傷の手当てまでしてもらっちゃって」



「お気になさらずに。あなた方は解放軍と戦った英雄。我々は当然のことをしてるまでですよ」



「そんな、英雄だなんて……」



 手厚い歓迎にライムが戸惑っていると、偶然正面に、塔の内壁の一部が鏡のように反射して見える箇所があることに気づいた。

 治療のために上半身裸となっていたライムは、自分の体の変化を感じ取る。



(あれ……俺の体……いつの間にこんなに筋肉が……)



 久しく自分の体をライムは見ていなかったが、鏡に映る肉体が別人のように思えていた。それほど筋肉質になっていたのだ。

 特にトレーニングを積んだつもりはない。解放軍と戦う過酷な生活に、自然と体は鍛えあげられていたらしい。

 

 ついつい鏡に映る自分をライムは見入ってしまっていた。

 その間にも、慣れた手つきで救護班の一員は治療を施し、ライムが見とれてるうちに治療は終わりを迎える。救護班の技術にライムは軽い衝撃を受けた。



「はい、終わりですよ。お疲れさまです」



「──えっ? もう終わったの? ありがとうございます。驚くくらい早いな」



 ライムは脱いだ上着を再び着直し、ふと振り返る。すると、そこにはすでに治療を終えて待っていたミサキの姿があり、偶然にもお互いの目があった。



「ミサキ、いたのか。もう終わってたんだな」



「えぇ、私はライムほど大した傷じゃないから。それよりライム。何であなた自分の体見てニヤニヤしてんの? ちょっと気持ち悪いわよ」



 無意識に笑みが溢れていたライムは、ミサキにそう言われ赤面した。



「お、俺ニヤニヤしてた……? う~ん……その~……き、気にしないでくれ!」 


 

 ライムがあたふたしていると、治療を終えたことを知ったナヴィが、奥の方からこちらへと舞い戻って来ている。



「終わったみたいだね。けど、何かお取り込み中だったかな? 準備ができたら、二人ともこちちへと来てくれ」



「だ、大丈夫だよ! 行きます、行きまーす!」



 ライムは恥ずかしさをごまかし、ナヴィのもとへと走っていった。

 やれやれといった様子で、ミサキも後に続く。


 そんな慌ただしいやり取りもあったが、二人はついに塔の内部へと足を踏み入れた。

 外部の人間は決して入ることのできない場所である。


 塔の中が一体どうなっているのか興味津々のライムは、辺りをキョロキョロと見回している。

 塔の内部はライムの想像していたものとはまるで違う、別の世界が広がっていた。



「塔の中って、こんな感じだったのか」



 内部には数多くの人が生活をしていた。

 今度は普通の人間だけではなく、“時の民”と呼ばれる、ナヴィのようなウサギの姿をした者も数名いる。

 普通の人間と時の民が、混在している状況だ。


 そしてその者達は皆、何やら手を動かし仕事をこなしているように見える。

 その手を動かす物は明らかにライム達が知っているパソコンで、ミサキはこの島とはかけ離れた電子機器の存在に一際驚いた。



「どうなってるの……島の中ではありえない物が平気であるなんて……」



 ナヴィが少し申し訳なさそうにしながら、ミサキに説明する。



「ちょっとこの世界のイメージを壊してしまうよね。でもこの塔の管理区域は、あくまでこの島ではなく君達のいた世界だから。島にいた人達が見たら、腰を抜かすかもしれないけど……」


 

 この塔の中は、島にはありえない物ばかりで埋め尽くされている。そんな非現実的空間が、ここには存在していた。

 島とまた別のもうひとつの世界がある──そう考えた方が分かりやすいかもしれない。

 島のひとつとして扱うには、存在が別格すぎる。時の塔とは、それほど特殊な場所だったのだ。


 ナヴィ達が塔の内部についての会話をしていると、一人の時の民がナヴィに近寄り、耳元で囁いた。



「ナヴィ様。準備できました。キリシマを例の部屋へと“連行”しております」



「そうか……分かった。今行く」



 ナヴィがライム達と共に、まさにキリシマのところへ行こうとしたその時──ライム達を知る、“あの男”が声をかけてきた。



「ライム君!!」



「──!! オオヤマさん!!」



 その“ある男”とは、キリシマ博士の部下で、ライム達に貴重な話をしてくれた、“オオヤマ”だ。

 ライム達は、塔の中でオオヤマと再会を果たした。






第83話 “非現実的空間” 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ