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第82話「非現実的空間①」

 ライム達はキリシマ博士を引き連れ、時の塔を目指すこととなった。

 長かった道のりを経て、アスカルタ洞窟をやっとの思いで抜け出す。



「ふぅ……ようやく外へと出れたな」



 洞窟の中にいたため、外の明るさや天気は、まるで分からない。

 まだ昼くらいにも関わらず、太陽は雲に覆われ、辺りはどんよりとした暗さだった。

 まさにこの先に待ち受ける出来事を示すかのように、暗雲立ち込めていた。






 カコイマミライ

~時を刻まない島~


第82話

 “非現実的空間”






 外へ出たライムは、そびえ立つ時の塔を真っ先に眺めた。

 初めて見たときは、時の塔は物凄く遠く感じていた。それを考えれば、もう手に届きそうなほど近い距離だ。



「時の塔はもうすぐだ! こっちだよ! 着いてきて!」



 ナヴィが先頭を切って進む。その後ろをぴったりくっつくように、キリシマ博士が歩く。


 逃げはしないと思うが、念のために前にいるナヴィと、後ろを歩くライムとミサキが、博士を挟むように包囲している。

 また、包囲するもうひとつの理由としては、力を持たない博士を外敵から守るためでもある。



(あまりキリシマ博士を連れてるところを、誰かに見られたくないな……)



 ナヴィの一番の懸念は、キリシマ博士を誰かに目撃されてしまうことだ。

 ただでさえ、アーサイ村ではキリシマの噂が絶えなかっただけに、面倒ごとはごめんである。

 しかし、ナヴィはキリシマ博士の風貌を今一度見直し、心の中で安堵した。



(このボーボーの髪に、無精髭……まさかこの人がキリシマとは、皆思うまい……気にしすぎか! 変にぎこちないと逆にバレる。堂々と行こう!)



 指名手配の写真とは、キリシマ博士の姿はかけ離れている。

 むしろよく解放軍のハヤテは、この男がキリシマだと見抜いたものだ。


 そんな無駄な心配をナヴィはしていたが、ライムにはそこまで頭は回っておらず、無心でナヴィと博士の後ろをついて歩いていた。

 博士の護衛を兼ねての移動のはずが、今のライムにその集中力はない。


 やはり、前にいるのが自分の父親だと思うと……

 いくら記憶はないといえど、意識してしまう。どこかぎこちない、言い表せない歯痒さがあったのだ。

 お互い会話は全くなく、気まずい雰囲気が漂い続ける。


 時の塔まであと少しといったところで、空からポツリと雨が落ち始めた。



「あ! 雨だ。濡れる前に塔の中に入ろう!」



 ナヴィ達は歩く速度をあげるも、次第に雨は強くなり、本降りとなる。



「ちょ、ちょっと! 何なのよ! 急に強くなって!!」



 ミサキは文句を言いながら、濡れないようにと

走り出し、ナヴィを追い越して一番前へと出た。



「はぁ……はぁ……着いた」



 時の塔へ一番乗りでミサキが辿り着く。

 ミサキは急いで中に入ろうと入り口を探すが、どこを探しても入り口が見当たらない。



「あれ? これどこから入るの……もしかして入り口は反対側かしら?」



 塔の外周はかなりありそうだ。もし入り口が反対側ならば、それだけでも十分距離があるだろう。

 ミサキが途方にくれていると、遅れてナヴィ達も到着する。



「ミサキ、ちょっと離れて! 普通の人は、この塔の中には入れない仕組みなんだ」



「──えっ? どういうこと?」



 ミサキにはナヴィの言葉が理解できなかったが、言われた通り塔から離れた。

 そして、ナヴィは何もないはずの塔の外壁に手をかざす。するとナヴィを招き入れるように入り口は突然現れ、人がちょうど一人分通れるくらいのサイズの扉が自動的に開いた。



「なにこれ……どうなってるの!?」



 何もなかったはずの場所に、突如出現した塔への入り口。

 ミサキが摩可不思議な光景に目を丸くしている。



「言ったろ? 普通の人では入れないって。僕達みたいな、塔の住人しか入れない仕組みになっているのさ」



 ナヴィは得意気に説明し、みんなを塔の中へと招き入れた。

 噂でしか耳にしたことのない塔の存在に、キリシマ博士も一段と驚いた様子だった。



「やはり時の塔とは、この巨大な塔のことだったか。しかし、塔には入り口が見当たらないと聞いていたが……こんな仕組みになっているとはな。これじゃあ誰も見つけられないはずだ! それでは、失礼するよ」



 ナヴィに続き、キリシマ博士とミサキも塔の中へと入る。

 ライムは一人遅れて塔に到着したが、中には入らず、塔の一歩外で立ち止まっていた。塔の遥か上空を見上げる。



(この島に来てから、この塔の存在は随分と目立ち、どれだけ高いんだろうと思ってたけど……頂上がまったく見えないな)



 いくら上を見上げても、塔のてっぺんは見えてこない。よくよく考えてみれば、ライムはこの塔の頂上を見た記憶がなかった。


 材質は鉄やコンクリートといったところか。この世界の建築物の多くは木材だ。

 それだけでも異例であるのに、何より気になるのは、この高さをどうやって建築したのかということである。

 やはりそこは、人の力では成し得ない、何か特殊な力が働いているのだろう。


 そんな妄想を一人繰り広げ、ライムは塔の前でボーッと突っ立っていた。

 棒立ちのライムを見かねたミサキが声をかける。



「いつまでも外にいたら風邪ひいちゃうよ? 早く中に入ろうよ」



「あぁ、ごめん。今行くよ!」



 ミサキに言われて、ライムもようやく塔の中へと入った。

 全員が塔の中に入ると同時に、扉は自動的に閉まり、また何てことのない、ただの壁へと姿を変えた。



「閉まっちゃった……こりゃ一体どうなってんだ」



 思わずライムが壁に見とれていると、塔の中ほどから勇ましい声が聞こえてくる。



「時の支配者・ナヴィ。ただいま帰還した! 解放軍キリシマのペア──もう一人のキリシマを連れてきた!!」




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