第8話「眠れる力①」
時の支配者・ナヴィは、普通の者では知ることのない、“時の流れ”について説明した。
「未来はいくつもの世界を持っているんだ!
数ある未来から“今”が“たったひとつだけ”選択され、その他の未来はすべて消滅する……
そして“今”が終わると、それは“過去”の出来事となる……
これが“時の流れ”なんだよ」
ライムはナヴィの難解な説明の連続に、ついていくのに必死だった。
「時の流れか……なんだかややこしい話だな…」
「この事実を知る者も少ない。すべて理解しろというのも、難しい事だとは思うよ」
話が難しかろうとも、ライムなりに理解を示したはずだっだが……
それでも当初の疑問である
『なぜ年齢や誕生日が分からないのか?』
この疑問の解答には、至ってはいなかった。
「あれ? 長々と話を聞いて、少しは理解したつもりだけど……
今の話と俺が年齢や誕生日が分からないのは、関係があるのか?」
「あぁそれはね、君達の世界で使っていた“時間”に関わってきているんだ!
時間は君達人間が便利なものとして作ったものだからね。太陽の動きから1日を決め、時間や分、秒を決めた。
この世界に時間という概念はないんだよ」
「そういう理由だったのか。この島では、時間が関係する日にちや年数なんてものは存在しない。
だからどう考えても、思い出すことができないわけか」
ライムは不思議な感覚を味わっていた。
夜と朝を境に、日をまたぐ“明日”や“昨日”といった簡単なものなら頭で理解できるのだが……
何日、何年といった具体的な数字を出そうとすると、全く頭には浮かんでこない。
そのため年齢などは、もってのほかの話だった。
一気に未知の情報を詰め込んだため、ライムはどっと疲れが出ていた。
そんな疲れきったライムを心配してナヴィは、あるひとつのことに、今は集中させるように仕向ける。
「まぁ時間の話とかは、あまり深く考える必要はないよ! 気にしなくても何ら問題はない。
君はあの“事件”のことだけ考えてればいい……それだけで十分だ!!」
「事件……?」
「君には話す義務がある……だから説明するね。
なぜ君がこの世界に来ることになってしまったのか……その真相をね」
カコイマミライ
~時を刻まない島~
第8話
“眠れる力”
ナヴィが、とある事件について語り始めた。
「君がいた世界に、時の研究をする科学者がいたんだ。まさにその科学者は、誰もが認める天才だった!!
彼は人類初の偉業を成し遂げる。その天才科学者は……
“未来”へ行くことができる装置を完成させたんだよ!!」
ライムは驚き、大声をあげた。
「未来に行けるだって!!?? タイムマシン!?
そんな漫画や映画の話が現実になったというのか!?」
「そう、信じられない話かもしれないけど、これは本当の話なんだよ!
科学者の誰もが夢見たものが、まさに現実となった!!
しかし、そこで大きな問題が発生する。その科学者は、知るよしもなかったんだ。
『生命ある者は、同じ時に、同時に存在してはならない』
この“時のルール”をね!!」
勘の鈍いライムでさえも、自分の身に何が起きたのか、すぐに気が付いた。
「その装置で、もしかして俺は……?」
「うん……ライムが飲み込まれた“時空の歪み”
それはこの装置の暴走によって発生したものなんだよ!」
ライムの想像通りの出来事だった。しかし、気になる事も見つかる。
「やっぱり! でも“暴走”って……何が起きてしまったんだ?」
ライムの質問に対し、ナヴィは困った表情を見せた。
「それが僕にも分からないんだ。なぜ装置が暴走してしまったのか。その原因が……
ただ、ひとつ分かっていることもある!
この装置を完成させた科学者や、その他大勢の研究員……
その者達も皆、この装置の暴走に巻き込まれ、時空の歪みに飲み込まれてしまったんだ!!」
「──じゃあもしかして、その科学者はいるのか? この島に!!
事件の原因の装置を作った、主犯ともいえる科学者が、この異世界に!」
「あぁ、この異世界のどこかにいる! ライムと同じように、科学者と、未来の科学者の両方がね!
そして、科学者を失った世界では、装置だけが残った。
先程話したように、“今”は止まっても、未来は動き続ける……
そのため、今現在も装置によって、次々と時空の歪みは引き起こされ、犠牲者は増えてしまっている……
君だけじゃないんだ。時空の歪みに飲み込まれ、異世界にたどりついたのは……」
「そ、そういうことだったのか……じゃあその異界人と呼ばれる者すべては、この装置による犠牲者!!」
時の支配者と名乗る、この謎のウサギ “ナヴィ”
普通なら胡散臭くて疑ってしまうような話だが、ライムはナヴィの話を信じた。
「ナヴィ。俺はおまえの話、信じるよ。とてもナヴィが嘘をついてるようには思えないしな!
でもどうして? どうしてこの俺に、こんな話を親切に教えてくれるんだ?」
一体、時の支配者というものが、何者なのかこそは分かりはしないが、通常の人では知ることのない、時の流れの話。
機密事項を説明しているのだということは、ライムにも想像がつく。
なぜ自分に、こんな重要な話をするのか?
ライムはそれが不思議でたまらなかった。ナヴィは当然の如く答える。
「それは言っただろ? 君が救世主だからだよ」
“救世主”
もう何度この言葉を耳にしたことだろう。いい加減ライムも、その理由を問いただす。
「俺はどこにでもいる普通の人間だよ。その俺が何で救世主になるんだ? 理由を教えてくれないか?」
「理由か……それは──」
ナヴィが深刻な顔をし、まさにその理由を答えようとした、その時!!
物音と共に何者かの声が響き渡った。
「いたぞ!!異界人だ!!」
その声の主は、先程撒いたと思っていた、解放軍のダイキの手下だった。