第77話「一世一代の大仕事①」
ライムはハヤテがヴァンパイアで近づく、“その瞬間”をずっと待っていた。
もうライムとハヤテの距離は、目と鼻の先だ。
それでもまだライムは我慢し続けている。
(もっと……もっと来い……俺の顔の目の前に来るまで、もっとだ! その時だ……決着をつけるのは!!)
カコイマミライ
~時を刻まない島~
第77話
“一世一代の大仕事”
ハヤテはライムを吸血するために、肩に手を当てた。
先程は暗さでよく顔は見えていなかったが、明るくなって改めて見てみると、ヴァンパイアはとても恐ろしい顔をしているのが分かる。
鋭い目付きに、鋭く尖った牙……
まさにその鋭利な牙で、ライムの首をがぶりと噛もうと、ヴァンパイアが大きく口を開けている──
その時だ。待ちに待った“その瞬間”が訪れたのは。
(今だ!!!)
ライムは神獣・フェニックスの力を一度解いた。
ふっと炎の灯りは消え、洞窟内に暗さが戻る。
「──ん!? なんだ!?」
不意をつかれ、一瞬ハヤテの動きが止まった。
ガンの力を両手に溜めるライムの指先からは、僅かな光が放たれている。ライムの口元が緩んでいるのがハヤテには分かった。
その不敵な笑みに気付いた刹那、再びライムはフェニックスの炎を燃やした。体から炎のみを宿す、部分一体化を試みる。
すると、またしても洞窟内には急激に明るくなり、強い光が差し込んだ。その光はハヤテの眼球を襲う。
「うっ……!! ま、眩しい……!!」
眩しさからか、思わずハヤテは顔を手で覆うようにして隠した。
これは絶好のチャンスだ。壁にもたれていたライムは、すっと体を降ろし、完全に地面に寝転ぶ。
そうすることにより、ハヤテの顔の真下に入ったライムは、ハヤテの顔面めがけて、真上に向けて力を放った。
「くらえハヤテ!! リミット・バースト!!」
まずは左手に溜めた力が放たれる。ハヤテの隙をつき、ガンの攻撃が顔面に直撃した。
──と思われたが、ハヤテはライムの攻撃を避けることに、念頭に置いている。
ライムを噛もうとしたのはフェイク。
ライムが力を放つまで、決して警戒を怠らない。
「バカめ!! 眩しくても全く見えないわけではない!!」
多少の勘の部分もあったかもしれない。ハヤテはライムの攻撃を回避した。
ガンの攻撃は外れ、天井へと当たり、ドーンと洞窟内に音が響き渡った。
「くそっ、外した……でも、もう一発ある!!」
ライムはそのまま寝転んだ状態で、再びハヤテを狙う。もう片方の右手をハヤテの顔に向けた。
ハヤテの目も明るさに慣れ、もう眩しさを感じることはない。次こそは、勘に頼らずとも回避することができる。
ライムの神力・ガンの能力は、力を溜めれば溜めるほど威力は高まり、光線の幅も大きくなる。
しかし、それに比例するように発砲は遅くなってしまうのだ。タイムラグが生まれる。
ゆえに、例え至近距離であってもハヤテはライムの攻撃をかわす自信があった。絶対にハヤテはライムの右手から目を反らさない。
「その右手から私は目を離さない……それを避けさえすれば、私の勝ちだからな!」
ずっとライムの右手に注目し、一点張りするハヤテに対し、思わずライムは笑った。
「そうか……その慎重な性格が裏目に出たようだな! 知らないぞ? こっちばかり見て後悔しても。俺の攻撃は──この右手からだけじゃないんだからな!」
「なにっ!?」
ライムが意味深な発言をするのも理由がある。
実は先程放った、左手でのリミット・バースト。この真の狙いはハヤテではない。
ライムはハヤテが攻撃を回避するのを先読みし、“天井”めがけて力を放っていたのだ。
天井にはいくつもの、つららのように鋭利に尖った鍾乳石がある。
まさにライム達がいる真上には、より大きな鍾乳石があったのだ。
ライムが瀬戸際で見つけた、“あるもの”とはこの鍾乳石のこと。
ライムはハヤテに切りつけられ、壁際に追い込まれた際、一度逃げるような素振りを見せていたが、これは決して逃げようとしていたわけではない。
この鍾乳石の真下に入るところに移動していたのだ。ライムはハヤテをこの場所へと、おびき寄せていたのである。
まさか天井からの攻撃が待ち受けてるとはハヤテも知るはずなく、ライムの右手だけに注意を払っていた。
ライムの作戦は功を奏し、グラグラと揺れながら耐えていた巨大な鍾乳石はとうとう落下し、ハヤテの後頭部へと衝突した。
「つっ……!!」




