第76話「土壇場②」
ライムは力を振り絞って走り出した。ガンの力を両手に溜める。
(もう俺の力も残っていない……地味に、このフェニックスの炎が俺の体力を蝕んでいきやがる……)
そう、暗闇で放つフェニックスの炎の灯火。
これがライムの体力を、じわじわと奪い続けている。
残された力は、まさにこの両手に溜めた“二発のみ”。
あとはこの二発を、どううまく決めるかに、すべてはかかっている。
対するハヤテはまだ余裕が伺える。
超スピードで走り、壁を蹴って“疾風迅雷”を繰り広げた。
フラついたライムを見たハヤテは、しっかりと感じ取っていたのだ。ライムの力が、あと残り僅かなことを。
(くそっ、またこれか!! これでは、外したときのリスクがでかすぎる……)
先程動きを見切ったといえど、狙いを定めるのはそう簡単なことではない。
ライムの弾はあと二発だ。むやみやたらと撃つことはできない。
己の反射神経に身を任せ、ハヤテの攻撃を回避するしか手段はなかった。
「ほら、坊っちゃん。さっきはうまく狙えたのでしょう? さぁ、撃ってみなさい!!」
負けず嫌いのハヤテは、ライムの真似をするように、安い挑発にでた。
今のハヤテの真の狙いはライムへの攻撃ではい。
ライムの二発の攻撃を、いかに回避するか。そこを念頭に置いている。
そのため、いつでも回避、方向転換できるように、多少速度を落としながら、動きのコントロールが可能な状態で洞窟内を飛び回っている。
ハヤテはライムの攻撃を誘っていたのだ。
決してライムはハヤテの狙いに気づいたわけではなかったが、溜めている力を放つことはしなかった。
ライムはいつになく慎重になっており、ただ単に攻撃を仕掛けることができずにいたのだ。
「撃ってこないつもりか。それなら──こちらから攻めるのみ!!」
ライムが攻撃してこないと悟り、ハヤテは攻めに転じた。疾風迅雷でのクローによる攻撃だ。
だが、ハヤテの左手はすでに負傷しており、攻撃は右手からしか出せない。
手数が少なくなった分、ライムにとって回避することは楽になっている。
そのおかけで、ライムは幾度もハヤテの攻撃を回避し、驚異的な粘りを見せるが……
いずれはやられる時が来る。
ついにハヤテがライムの体をとらえた。
「ここだ!! 捕まえましたよ!! 坊っちゃん!!」
ハヤテはクローを振りかざし、ライムを切りつた。
切りつけられたライムは、またしても吹き飛ばされ壁に激突する。
「うっ!! や、やべっ!!」
壁に追い込まれたライムは、その場を離れるために急いで立ち上がるも、ハヤテはライムを逃さない。一気に間合いをつめた。
あっという間にライムの目の前まで来たハヤテは、神力を溜めてる余裕はないと判断し、ライムを足で蹴り飛ばした。
あのスピードを生み出す、ハヤテの脚力。
神力は宿らずとも、蹴りの威力は十分破壊力がある。
蹴られたライムは、壁際でうずくまり、今度こそ完全に追い込まれてしまった。
「ぐっ……くそっ……」
壁際に追い込まれようとも、ライムの溜めた力はまだ残っている。
その力を放つまで、ハヤテは一切の警戒を緩めない。
「これだけやられても、まだ力を保ってるとは……
たいした根性ですね」
この至近距離で撃てば当たる気もしなくはないが……ライムは“その時”が来るのを待ち続け、ひたすら耐えていた。
(焦るな……まだだ……ハヤテの反射神経とスピードは、尋常じゃない。今撃っても、かわされてしまう気がする……絶対来る、“あの瞬間”が! 必ずやつは、あれを……)
二人の我慢比べが始まった。
力を放たず、チャンスを伺うライム
片や、トドメを刺しにかかりたいが、相手の攻撃を警戒するハヤテ
お互い一向に気を抜けないまま、しばし壁際での我慢比べが行われたが──
その均衡はとうとう破れる。先にハヤテが動いた。
「いい加減撃たないと……そのままやられるだけですよ。坊っちゃん。そんなにヴァンパイアの餌食になりたいなら……お望み通り、してあげますよ」
ハヤテがライムの血を奪うために、ライムの首もとに近づこうとしている。
実はライムは“この瞬間”をずっと待っていたのだ。
(来た!! そう、こいつは俺を殺せない。キリシマの息子の、この俺を!! だから最後はヴァンパイアで必ず攻めて来る!!)
壁にもたれ掛かるようにしてライムは座り込み、その瞬間をずっと待っている。
一切動くことのないライムに、ナヴィは
『きっとライムには何かしらの策がある』
そう信じ、固唾を飲んで、じっと見守っていた。
(知ってるよ、ライム。君には何か考えがあるんだろ? いつも君は追い込まれた土壇場で、逆転劇を起こしてきた!! だから僕は信じる……ライムを!!)
ハヤテは一歩ずつ距離を詰め、二人の距離はどんどん縮まっていく。
それでも……まだ、まだ……ライムは我慢し続けている。
(もっと……もっと来い……俺の顔の目の前に来るまで、もっとだ! その時だ……決着をつけるのは!!)
第76話 “土壇場” 完




