第75話「土壇場①」
神獣・ヴァンパイアを扱う、解放軍ハヤテとの戦い。
序盤は苦戦をしいられたが、フェニックスの能力で視界が晴れたことにより、ついにライムは反撃ののろしをあげる。
「散々いたぶってくれたからな……反撃はこれからだぜ! 解放軍!!」
カコイマミライ
~時を刻まない島~
第75話
“土壇場”
ライムの攻撃が初めてヒットし、ハヤテは左肩を負傷する。これでは強く腕を振ることはできない。
力を溜めることで威力を発揮する神力。
振りかぶることができなければ、力は発せないと言っても過言ではないだろう。ハヤテの攻撃力は半減だ。
「チッ……これでは左手がうまく動かせない……まぁいいでしょう。足は健在だ。それにヴァンパイアの吸血が、私にはある!!」
それでもハヤテには十分だった。自慢の足と、ヴァンパイアの力がある。
いずれもライムには脅威な存在だ。
だが、一度動きを見切られた以上、ハヤテも迂闊には動けない。
また同じように飛び込んできてくれてれば、ライムにとっては好都合だったのだが……
(ハヤテが俺を警戒している……?また近づいて来たところを、撃ち抜いてやろうと思ったのに。こうも距離を取られてしまうと……)
ハヤテは一定の距離を保ち、いつでもライムの攻撃を回避できるように備えている。
この遠距離ではいくらライムが動きを見切ったといえど、簡単には当たらない。
ライムはハヤテを誘い出すために、挑発をいれた。
「どうした!? ハヤテ!! ビビってやがるのか? 来いよ!! そのお前の自慢の足でよ!!」
「随分と安い挑発ですね。魂胆がバレバレですよ、坊っちゃん! 誰がそんな挑発に乗るものですか!! 」
しかし、ライムの考えは見透かされている。安い挑発に乗るハヤテではない。
(チッ、やっぱりだめか。そっちが近づいて来ないなら……俺から行ってやる!!)
むやみに動いてこないと悟ったライムは、今度は走りだし、自ら距離を詰めに行った。
一定の距離を保っていたハヤテは、再び距離を取るために、後ろに下がるかと思いきや……
逃げることせず、逆にスピードをつけて更にライムへと近づいた。
(──!! なにっ!? 攻めてきた!?)
後ろに下がると決め込んでいたライムは不意を突かれ、ハヤテのクローの攻撃を真正面から受ける。
「ぐっ……!!」
ライムは胸部を切りつけられ、血しぶきをあげながら、勢いそのままに壁まで吹き飛ばされた。
「ライム!!」
壁に激突する痛そうなライムを、ナヴィは心配そうに見ている。
一瞬、ライムの記憶が飛ぶ。しかし、すぐさまライムは立ち上がった。
「大丈夫だ。心配ない、ナヴィ。おっと……」
ナヴィに不安を与えまいと『大丈夫』と言ったわけだが、言葉と体の動きが合っていない。
足はふらつき、ライムはバランスを崩してよろけた。
「大丈夫って……フラフラじゃないか!!」
ライムの体は限界に近づいてきている。
この戦いも、そう長くないだろう。
そんな厳しい状況下でも、ライムは少しでも勝機を見い出そうと、一生懸命頭を働かせていた。
(はぁ……はぁ……だめだ、クラクラする……何か、何か策はないのか!?)
すると、その努力が実ったのか、“あるもの”を見つける。ライムはそこにひとつの可能性を感じていた。
(──!! これは……もしかしたら使えるかもしれない!!)
よろめくライムの姿に、敵ながらもハヤテは優しく声をかける。
「おやおや、随分と辛そうですね、坊っちゃん。あまり無理をしない方がいいのでは? 私の吸血をくらえば、一瞬で楽になれますよ!」
“あるもの”に勘づかれないように、ライムゆっくりと歩き出し、吠えた。
「誰がそんなのくらうかよ!! 俺はおまえを倒して、先へ行くんだ!! そしてキリシマに……親父に会いに行くんだ!!」
「感動の再会ってやつですか? これはこれは、泣けますね!」
「いや、そうはならねぇ……この島があんたのせいで大変なことになってるって言って、ぶん殴ってやりたい気分だよ!!」
二人の再会が『感動の再会』とはならないことは分かっている。
それもそのはず、ライムには父親としてのキリシマの記憶がないからだ。
しかし、それでも父親と言われる存在と会ったとき……何かしらの感情が芽生えるのではないだろうか……?
そんな淡い期待を、ライムは抱いていた。
けれども、それもすべてはハヤテに勝ってからの話だ。先のことを考えるのはまだ早い。
ハヤテはそう簡単に、勝ちを譲ってくれそうにない。
「どうやったって父親には会えるから、心配しなくたっていいんですよ! 坊っちゃん!!
私の吸血で気を失って、あなたも一緒に牢屋へと入るのですからね!!」
「それだと意味ないんだよな……牢屋の外から会わなきゃ! 少しは親父の前で、格好つけさせてくれ!!」




