第73話「アウェイ②」
ライムは必死に答えを探すも、一向にその答えは見えてこない。
だが、唯一の灯りを手にするナヴィには、ハヤテの動きがライム以上に見えていた。
「ハヤテは“上”にいたんだよ! 消えたわけなんかじゃない……コウモリのように逆さになって天井にぶら下がり、ミサキの背後へと回ったんだ!!」
ナヴィがからくりを暴く。
より一層と暗い洞窟の中での出来事だ。普段目で追えるはずのものが、この暗闇により視界を奪われ、見えなくなってしまう。
ナヴィの説明で、先程何が起きていたのか、ライムにもようやく理解ができた。
「そうか! 天井にいたのか!! くそっ、能力さえ分かっていれば……」
言い訳をするライムに、ハヤテは厳しい言葉を浴びせる。
「何を言ってるんですか……坊っちゃんなだけに、あなたは甘ちゃんか? それをバレさずに戦うのも、戦略のひとつでしょうに!! まぁ……能力が分かったからといって、勝てるとも限りませんが!!」
ハヤテはニヤリと口元を緩ませた。
そして笑顔から一転、再び加速し始め、次の攻撃に取りかかる。
今度はヴァンパイアの能力も含めて、更にスピードをあげるつもりだ。
勢いよく走り出したハヤテは、ライムに向かってくるかと思いきや、誰もいない壁目掛けて走り出していた。
謎の行動を取るハヤテに、ライムは呆気にとられている。
「ん? なんだ……今度は何をするつもりなんだ?」
「坊っちゃん、くらうがいい!! 私の編み出した秘技──“疾風迅雷”を!!」
そうハヤテは叫びながら、勢いよくジャンプし、思いきり壁を蹴った。
すると、速度は減速するどころか更にスピードは上がっていく。
これもヴァンパイアのコウモリの特性を活かした技なのだろう。
まるでピンボールのように、壁や天井に跳ね返る形で高速に移動している。
その速すぎる速度に、ライムの目は完全に追い付かない。
(な、なんて速さだ!! もうどこにいるのかすら、よく分からない……)
下手したらハヤテ本人も、速すぎて制御できていないのかもしれない。しかし、それも関係ない。
残るはライムとナヴィの二人だ。ハヤテの味方はもういない。
ハヤテは神獣・ヴァンパイアの能力と、神力・クローの能力を融合させ、超スピードに乗せて無差別に切りつける。
「ぐわっっ!!!」
ライムが“疾風迅雷”の餌食となり、鉤爪で切りつけられた。
もはやどこから飛んできたのかすら分からない。それほど速い攻撃だった。
「ライム! 大丈夫か!?」
ナヴィがライムの心配をするも、ナヴィも人の心配をしている場合ではない。
今度はナヴィの目の前をハヤテが高速で通過する。
「わわわっ! いつの間に目の前に!!」
ナヴィは思わず目を瞑り、その場をやり過ごした。
ラッキーなことに、ハヤテの攻撃はナヴィにはギリギリ当たらなかったようだ。
一度は“ラッキー”と思えたのも束の間、すぐさまその心中は覆される。それどころか、事態は更に悪い展開へと進んでいた。
ハヤテのクローはナヴィの体にこそ触れはしなかった。けれども、クローはナヴィの手にする“ランプ”を切りつけていたのだ。
パリンと音を立ててランプは壊れ、唯一の灯りは消失した。
洞窟内は真っ暗闇となり、視界には何も映ってはこない。ライムは焦った。
「うわっ! これじゃ何も見えない! でも待てよ……これならハヤテも何も見えないはずだ!」
この暗さなら、ライムどころかハヤテすら何も見えないのでは?
お互いが最悪な状況下に変わったかと思われた。
だが、ここでもヴァンパイアの能力が活きる。
ハヤテはライムの言葉を聞いて思わず笑った。
「はっはっは! 私はヴァンパイアと化しているんですよ? 普通の人間の“目”とは違う! 暗闇でも、しっかりと坊っちゃんの顔が見えてますよ!!」
ハヤテがこのアスカルタ洞窟をアジトとしているのには理由があった。
もちろんあまり人が訪れないという理由もひとつとしてあったが、すべてが神力・クロー、神獣・ヴァンパイアに活かされている。
暗闇に対応した目。
天井にもぶら下がれる能力。
足を活かした、狭い洞窟内での鉤爪による攻撃。
十二分に計算された地での戦闘は、ハヤテに優位に働く。ライムにとっては完全にアウェイでの戦いだった。
何も見えない暗闇の中で、ハヤテはライムにクローで切りつきにかかる。
ライムは足音を頼りに、勘のみで攻撃をかわすしか手段はない。
「ぐっ! くそっ……
(こんな適当に避けるだけじゃ、無理に決まってるよな……)」
無論、回避できるわけはなく、ダメージを受ける。




