第70話「苦戦①」
ナヴィには解放軍・ハヤテがキリシマのペアを捕らえる必要性が分からなかった。
キリシマのことを第一に考えれば、ペアを消してしまえばいい話だ。
そんな一般的な思考に、ハヤテはため息をつく。
「まだまだ分かってないみたいですね……それでは報われないんですよ、この島は!!
この島が……キリシマ様を必要としているのだよ!!」
カコイマミライ
~時を刻まない島~
第70話
“苦戦”
ナヴィはハヤテの発言を聞いても、やはり理解を示すことができない。
「この島がキリシマを必要としている? どういうことだ!?」
ハヤテは笑みを浮かべながらその理由を語る。
「キリシマ様はこの島に、多大なる教えをくれた。その教えは今や、島中に広まっている。それほどの影響力のあるお方だ。
もっともっと必要なのですよ。キリシマ様の教えは!! 島の人間は必要としてるのだよ! キリシマ様を!!
それがこんなところで消えてしまえば、もう教えは受けられないではないか! それでは困る!!」
まさにキリシマを崇拝しているがゆえに出てくる思考。ナヴィ達の頭にはない発想である。
ハヤテは笑いを堪えながらも更に語り続け、ついには我慢できなくなり、狂ったように大声で笑った。
「確かにあなた達のように、キリシマ様のためを想う者も中にはいたかもしれない……だが私に見つかってしまったのが運のツキ。
キリシマ様は寿命の続く限り、この島に君臨し続けるのだよ!! ふはははは! はっはっはっは!!」
重篤なキリシマ信者の成れの果てを見た気がして、ライムは吐き気がした。
「イカれてるよ……あんた……どうやらキリシマの顔を拝むには、あんたを倒さなきゃならないみたいだな!!」
ライムが戦闘態勢を取った。
それに気付いたハヤテは、あれだけ笑っていたにも関わらず、真剣な顔つきへと一気に変わる。そして身を引き締めた。
「えぇ……牢屋の鍵が欲しれけばね。同胞達を苦しめたお返しも、しっかりとしてやらねばならない!!」
まずはハヤテが先制攻撃を仕掛ける。ライムに狙いを定めた。
どんな神力を使ってくるか分からず、ライムは後手に回っていた。
しかし、いつでも反撃できるようにと右手にガンの力はしっかりと溜めている。
ハヤテは超スピードを見せ、瞬く間にライムのとの距離を縮めた。
お互い距離は十分にあったのに、気づけばもう目の前だ。想像以上の速さである。
(──!! は、速い!!)
ライムはギリギリのところでハヤテの謎の神力を回避した。
そして、回避とほぼ同時に、反撃の一撃をお見舞する。
だが、またしてもハヤテは超スピードを見せ、ライムの攻撃を華麗にかわす。また二人の距離は遠ざかった。
一瞬の出来事の中で、二人の攻防が繰り広げられている。
正直、ミサキは目で二人を追うのが精一杯だ。
「なんて速さなの!? ライムももちろんだけど、あのハヤテのスピードは尋常じゃない!!」
ハヤテはニンマリとし、涼しい顔をしている。
「やりますね! さすがは私の同胞を次々と倒しただけある。いい反射神経です! 私の攻撃をかわすとは! まぁ──完全にかわせたわけではないようですが!」
完璧にハヤテの攻撃を回避したと思われたライムであったが、胸部辺りに何か“切られた”用な痕が残っている。
多少の出血がする程度で、傷自体はたいしたものではない。ライムは強がって見せた。
「あぁ~あ……新しく服買ったばかりなのにな。もう切り傷が……」
そんな余裕をライムは見せるも、実際の所は内心焦っていた。
洞窟内の足場は至るところがデコボコで、ライムも自信を持つ、足によるスピードは使えないと予測を立てていたわけだが──
ハヤテは何の苦にもすることなく、俊敏な動きをして見せたのだ。
それだけではない。
洞窟内は横の狭さだけでなく、天井は低く縦にも狭い。
前回ミツルギを、フェニックスの力で空から撃退したが、この狭い洞窟の中では空からの攻撃は無理そうだ。
ライムの得意技が、いくつも封じ込められてしまっている。最悪の環境下に置かれていた。
(やはり手下達のように、簡単にはいかないか……これはまずいことになるかもしれないぞ……)
調子に乗ってどんどん先へと進んだツケが、ここに来て訪れてしまったようだ。
後先考えず、ライムは勢い任せに、ここまでやって来てしまっていた。
焦るライムをよそに、ナヴィは敵を冷静に分析している。
ナヴィがライムの切られた服を見て勘づく。
「斬られたと言っても、神力・ソードとはまた違う。なんだろう……この3つの切り傷の痕……まるで“引っ掛かれた”痕のような……」
ほぼほぼナヴィは正解を導きだしていた。
ハヤテは自らの神力の能力を告げる。
「よく分かりましたね。私の神力は
“クロー”
鉤爪で相手を切り裂く。私のスピードが合わされば、何倍もの威力を発揮する!!」




