第66話「真の救世主③」
宿屋に入った三人は、すぐにベッドに横になる。
疲れがだいぶ溜まっていたのか、ナヴィとミサキは早々に眠りについた。
しかしライムは、めまぐるしく動いた事態に、頭の切り替えがうまくできず、中々寝ることができなかった。
この島での生活は辛いことの連続だ。体は疲れてるはずなのに……一向に、寝れる気配はない。
寝れないライムは、そっと一人宿屋を抜け出し、地べたに座りこみ星空を眺めた。
元いた世界では絶対見ることのできない綺麗な星空に、すさんだ心が癒される。
(星が綺麗だな……星が見えるってことは、よくよく考えたら、この世界も宇宙と繋がってるのか……?)
ロマンチックな思いに浸っていたが、隣を見れば満点の星空からは一変
時の塔が視界に入り込む。
ライムは一気に現実へと引き戻された。
(親父か……ずっといないもんだと思ってたな。今や大犯罪者だけど……一体どんな人だったんだろう……)
キリシマが異世界に飛ばされる前までは、ライムに父親の記憶はあったはずである。
そうなると、ほとんどの“時”を父親と一緒に過ごしていたことになる……
それにも関わらず、今のライムには一切、父親の記憶はない。
残された母をライムは思い浮かべ、なんだかとても寂しい気持ちに陥ってしまった……
完全にホームシックとなっている。
(帰りたいな。また元の世界に……母さんも一人で元気にしてるかな……
夫も息子も記憶から消えて、一人でちゃんと生活できてるのか?
必ず戻るから……俺だけじゃない。親父も一緒に連れ戻せたら……いいな……)
キリシマの部下、オオヤマの話を信じるならば、キリシマは決して悪い人間ではないはず……
ライムはキリシマに残る良心に、僅かな希望を抱いていた。
結局、この夜は一段と目が冴え、ライムはあまり眠りにつくことはできなかった。
ようやく寝れたと思ったところで、早くも朝を迎え、宿屋の外のガヤ騒ぎによってライムは目を覚ますこととなる。
「見たんだって!! 本当だって!!
いたんだよ……“キリシマ”が!!」
キリシマの声に反応するように、ライムがベッドから飛び起きた。
同様にミサキも一気に目が覚めた様子で、慌てて体を起こす。
騒がしい男達の声が宿屋の中に響き渡っている。これは最悪の目覚めだ。
「本当かよ!! あの噂、本当だったんだな」
飛び起きた二人に対し、まだぐっすりと眠り続けるナヴィ。
毛布からはみ出た耳をライムは強引に引っ張り、耳元で大声で叫んだ。
「起きろ!! ナヴィ!!!」
「──痛てててて!! びっくりするな!! な、なにするんだよライム!!」
ライムの荒業により、ようやくナヴィも目を覚ましたようだ。
こちらの方が、最悪の目覚めと呼ぶに相応しかったかもしれない。
大声を出してナヴィは怒るも、ライムはナヴィの口を手で塞ぎ、反対の手で外の方角を指差した。
「──ん? 外がどうしたの……?」
未だ状況がつかめていないナヴィを置き去りにし、ライムとミサキは改めて外の騒ぎ声を聞くために、窓際に寄って耳を澄ました。
これで男達の騒ぎ声がよく聞こえる。
「おかしいだろ……なんで解放軍がキリシマを捕らえる必要があるんだよ!! 見間違いなんじゃねぇのか?」
「俺が知るかよ!! そんなこと!!
確かに風貌は指名手配書とは違ったが……顔のパーツは誤魔化せねぇ! あれは絶対キリシマだ!!
解放軍の奴らも『キリシマ』って連呼してたしな!! だから間違いねぇよ。俺はキリシマが解放軍に拉致られてくのを見たんだ!!」
キリシマが解放軍に捕まった!!??
キリシマは解放軍のトップのはずだ……
なのに、解放軍にキリシマが捕まるとは、一体どういうことなのだろう……?
疑問に思うライム達だったが、すぐにひとつの可能性が全員の頭に浮かぶ。
「──もしかして……捕まったのはキリシマの“ペア”!!!」
ライムはたまらず宿屋の外へと飛び出した。
そして話をする男達のもとへと駆けつけ、息もつかせぬ早さで問いかける。
「なぁ!! その捕まったキリシマ……一体どこに連れて行かれたんだ!? 教えてくれないか!?」
男達はライムの突然の出現に驚くも、勢いに負けてか、あっさりと居場所を答えた。
「なんだおまえ、そんなに慌てて……キリシマが連れてかれた場所か?
それなら、この先をずっと真っ直ぐ進んだ先にある洞窟だよ。
“アスカルタ洞窟”の中だ」
「洞窟……ありがとう!!」
居場所も分かり、ライムはナヴィ達のもとへとすぐさま戻る。
「ナヴィ! キリシマの居場所は掴めた!! どうする? 元々は時の塔へ行くって話だったよな!?」
眠たい顔をしていたナヴィも、キリッとした顔つきに変わっている。おおよその事態は把握した。
「いや……後回しでいい。行こう!! キリシマがいるところへ!!」
第66話 “真の救世主” 完




