第65話「真の救世主②」
オオヤマがいなくなるや否や、再びナヴィによるライムへの謝罪が始まった。
「ごめん!! ライム!! 本当に申し訳ない。僕の勘違いのせいで……勝手に救世主だなんて決めつけてさ……」
血の気の引いた青ざめた表情で、ナヴィは弁解する。
「キリシマの件は、本当に知らなかったんだ! これは隠してたわけなんかじゃない……
実のところ僕もこの装置の事件は、オオヤマさんのように時空の歪みに飲み込まれ、こちらの世界にやって来た研究員から聞いた話だったんだよ!!」
初めてナヴィの口から飛び出る事実に、ライムは驚いた。
「えっ……そうなのか? てっきりナヴィが事件の瞬間を見ていたものかと……」
「いや、僕を含めた塔の仲間達、誰一人としてその瞬間を見ていた者はいない……
もし見てたものなら、すぐにキリシマのことも分かったし、ライムにも伝えてたさ!
この島で研究員に出くわさなければ、知ることすらできなかった事件だったんだ」
オオヤマが語った、キリシマが装置を暴走させた大事件……
この事件の瞬間を、時の塔にて目の当たりにした者は、誰一人としていない。
当事者しか知ることのない出来事のため、すべては装置の研究員から聞いた事柄だったのだ。
しかし、その当事者の研究員から、事件の主犯格の名前が出ることはなかった。
ナヴィはずっと、主犯格を庇うために、研究員がシラを切っているのかと考えていたが……決してそういうわけではなかった。
「それと、なぜかその研究員から装置を作った責任者……
装置の暴走の首謀者の名前は出ることがなかったのだけど……
その理由もオオヤマさんの話で、今はっきりとしたよ!
キリシマが先に時空の歪みに飲み込まれたことにより、研究員の記憶から消えてしまっていたんだね……
通りで、研究員の口から、“キリシマ”の名前が出てこなかったわけだ」
何も研究員は装置の責任者、この事件の主犯格を庇って口を割らなかったわけではない。
時のルールに引っ掛かり、キリシマが先に異世界へと飛ばされたことで、研究員の記憶からキリシマの存在と記憶が消えていたのだ。
度重なる不運により、ナヴィがこの真実にたどり着くまでに多くの“時”と、数々の勘違いを生んでしまった……
その一番の被害をこうむったのがライムだ。
ナヴィは改めて、深々とライムに頭を下げた。
「本当に申し訳ない……ライム!! 僕は時の支配者、失格だ。何て間違いを……本当に申し訳ない!!」
ナヴィは何度も何度も頭を下げた。
いくら謝罪の言葉を述べても、謝り足りないくらいだ。
けれども正直なところ、ライムからしても今更謝られたところで困る話。
すべてはもう過ぎた出来事である……
ましてや、時の支配者失格といって、ナヴィが責任を取って辞めるなど、もってのほか。
それはただの逃げに過ぎない。
ナヴィにはまだまだやってもらわなければならないことがたくさんある。
そんな後悔ばかりし、“後ろ”を見続けるナヴィに対し……
ライムはすでに先を考えており、しっかりと“前”を向いていた。
「顔をあげろよ。ナヴィ。
いいんだ、もう……そんなことどうだって……」
頭を下げていたナヴィはゆっくりと顔をあげ、そっとライムの顔を見た。
「えっ、いいってのはどういうこと……?」
「確かにキリシマは俺のペアじゃなかった。けどキリシマは俺の親父で……
結局、俺には切っても切れない話だった!
だからさっきもオオヤマさんに言ったように、俺が責任もってキリシマを止めなきゃならない!
俺が本物の救世主じゃなくても、なんだっていい……
キリシマを倒して、俺がその救世主になってやる!!」
「ライム……」
ライムのたくましさに、ナヴィの目には涙が溢れた。
ライムの決意が感じられ、やる気はみなぎっていたが……
至って冷静だったミサキが、ライムの旅においての、もうひとつの目的の件について触れる。
「でもライム。キリシマがペアじゃなかったってことは……ライムのペア探しの件は、一からやり直しね!」
「──あっ、そうか……」
そんなことすっかり忘れていた。
今のライムの頭には、自分のペア探しのことなど一切なかった。
キリシマを止めることが第一優先。
他のことは、すべて後回しだ。
「まぁそっちはキリシマをなんとかしてから考えるよ……
散々自分の未来について悩んだことがバカみたいだ……一時は死ぬことまで考えたんだぜ?」
これは危なかった……
ライムが自分の存在を否定し、自らの死を選んでいたら……
無関係なキリシマも消えることなく、完全なる無駄死にとなっていた。
度々、ナヴィに罪悪感が重くのし掛かる。
「うぅ……ごめんよ、ライム……」
「だから謝らなくていいって! 俺もちょっと嫌味言って悪かったよ!!」
ライムは涙目のナヴィの頭をぐっと抑え、くしゃっと軽く撫でた。
「ほら、俺達も村に戻るぞ!! 泣いてないで行くぞ! ナヴィ!!」
ライム達もアーサイ村へと戻り、宿屋で就寝することにした。




