第64話「真の救世主①」
キリシマ博士の部下、オオヤマから多くの有力な情報を得ることができた。
少しでも“時”がずれていたものならば、この情報も得ることはできなかっただろう。
今までの勘違いをナヴィは後悔したが、ここで知ることができてよかったと、前向きにナヴィはとらえた。
(キリシマのことを記憶してるんだ……オオヤマさんがキリシマより先に異世界に飛ばされたということになる……
少しでも順番が違えば、オオヤマさんもキリシマの存在を忘れ、僕達がここでこの事実を知ることもできなかった……
その点だけは、幸運だったと考えるべきだろうか……)
冷や汗を流し、困り顔をしていたナヴィにオオヤマは尋ねる。
「君達はキリシマ博士を探してるんだろ? だからこの村へとやってきたのかい?」
意味深な発言をするオオヤマ。
何のことか全く理解できず、ミサキが聞き返した。
「えっ? このアーサイ村に……? 何かこことキリシマが関係あるの……?」
「なんだ、違うのかい? 私自身、あの“噂”を聞きつけて、この村へと足を運んだんだ」
「噂……?」
「そう。どうやらキリシマ博士がこの村の近くにいるという情報が多発しててね。
だから私はキリシマ博士に会いに来たんだよ!」
カコイマミライ
~時を刻まない島~
第64話
“真の救世主”
ショックを受け、ずっと黙りこんでいたライムの目が見開いた。
(キリシマ……俺の親父が……この近くにいる!?)
つくづくこの男の発言には驚かされる。
アーサイ村で聞き込みをしていたナヴィにとっては、信じられない話だ。
「本当かい!? その話は!! おかしいな……アーサイ村で聞いたときは、そんな話全く聞かなかったのに……」
「みんな解放軍やキリシマが怖いんだ……
『そんなの噂話にしか過ぎない、人違いに決まってる』
きっとそう思ってるんじゃないかな? 隣村では、かなり有名な話だよ!!」
ナヴィ達にとっては、キリシマの噂が本当ならば朗報だが……
それよりも第一に、ナヴィはオオヤマの身を案じていた。
「オオヤマさん。キリシマに会いに来たって……会ってどうするつもり……?」
「どうするって……この島に来てから身寄りがいないからね。
解放軍のトップと恐れられているけど、博士はそんな人じゃない!
会って話をすれば、きっと分かってくれるはずだ! 何せ私達は、あの大変な研究を共にしてきた者同士なのだから!!」
オオヤマの証言から、先にオオヤマが異世界に飛ばされたのは明らか。
即ち、キリシマの記憶からオオヤマは消えていることになる。
もちろんオオヤマは、この事実を知らない。
「それは危険すぎる……残念だが、オオヤマさん。キリシマはあなたのことを覚えていない! 記憶からあなたは消えてしまっているんだよ!」
「記憶から消える? 何を言ってるんだ……」
オオヤマが理解できないのは無理ないが、ナヴィはオオヤマに迫り、必死にその行為の危険さを伝えた。
「いいから何でもだ!! 絶対キリシマには近づいちゃだめだ!!
もうキリシマはあなたが知らない、別人だと思った方がいい!!」
いまいち理由がはっきりとしない。これではオオヤマが引き下がる訳がない。
「なぜだ! やっと私の知ってる人と会えるんだ!! 会ったっていいだろう!!」
「ならば聞くけど、オオヤマさん……神力に神獣は扱えるのかい?
いざとなったらキリシマは……あなたを“解放”しかねないよ?」
オオヤマは、ばつが悪そうにナヴィから目をそらした。
「神力、神獣……そんな危険なもの、私には扱えないよ…… 」
ナヴィはオオヤマの両手をぎゅっと握り、熱い思いをぶつける。
「ならば、ここは僕達に任せてくれないか? こちらには息子のライムがいる! だから大丈夫だ! 必ず僕達がなんとかする!!
反対にあなたはキリシマから離れるんだ! 装置の事を知られたくないキリシマにとって、あなたのような存在は邪魔になる……命を狙われる恐れだってある!」
「またそんな大袈裟なことを言わないでくれ! 命を狙われるなんてこと、あるはずがない……」
「いや、キリシマにはオオヤマさんの記憶がないんだから、何をされてもおかしくないんだよ!
どうすればオオヤマさんが、これから安心して暮らせるか──そうだ!! 時の塔に行くといいよ!!
あそこには僕の仲間がいる! 事情を話せば、中に入れて安全を確保してくれるはずだ」
「時の塔って……あの塔のことだよね……? 塔の中は入れないって噂をよく聞くけど……」
オオヤマももちろん塔の存在は知っているが、島中で塔の中には入れないとの噂が飛びかっている。
しかし、そこは普通の人は知ることのない、時の支配者であるナヴィの名前を出せば、塔の住人達にも話は通じるのだろう。
「そこは僕の名前と、事情を説明すれば問題ない! そうすれば、きっと受け入れてくれるはずだ!
オオヤマさん、本当に貴重な話をありがとう! この話は絶対、他の人にはしちゃだめだよ?」
「こんな話……他にするわけがない。ライム君がいたから話しただけだ!
第一、こんなプロジェクトの話を誰かにしたところで、誰も信じやしないさ……」
ナヴィの熱弁にライムも感化されたのか、ライムからもオオヤマに強い意思を伝える。
「オオヤマさん、俺からもお礼を。ありがとうございます!!
正直、まだキリシマが親父って実感はないんだけど……息子である俺が、親父の暴走を止めなきゃならない!
だから──絶対に俺がなんとかするから!! あとは俺達に任せてください!!」
ナヴィとライムの熱意、自分の身を真剣に考えてくれる気持ちにオオヤマは負けた。
ようやくオオヤマも引き下がる。
「分かったよ。ライム君までそう言うなら、博士の件は君達に任せるよ!
君達も十分気をつけて! 博士をよろしく頼む!!
時の塔の件はよく考えておくよ。じゃあ、私は村へ戻るね」
一通り話はこれにて終わった。
オオヤマはアーサイ村へと帰っていく。




