第63話「???②」
※ネタバレの恐れがあるため、タイトルを伏せています。前話まで読んでから、先を読むことをお勧めします。
頭と気持ちの整理がライムにはまだ出来ていない。しばらく沈黙状態が続く。
ナヴィはライムに深々と頭を下げた。
「時の支配者として、大変失礼なことをしていた……本当に申し訳ない。どう償ったらいいものか……」
落ち込むナヴィ……困惑するライム……
嫌な空気が漂う中で、ミサキは少しでもライムを励まそうと、辛い事実の中での唯一のメリットをあげた。
「でもさ、ライム……キリシマがライムのペアじゃなくて、よかったじゃない! そこは喜ぶべきよ!!
ずっと私もおかしいと思ってた! こんな心の優しいライムがキリシマなわけないもの!
そういえばミツルギも、似たようなこと言ってたしね!」
ミツルギの言葉が、ライムの脳内で再生される。
『おまえ……本当にキリシマか……?』
「あっ!
(あいつ……間違いじゃなかったんだ!!)」
ライムの中で、すっきりしたものが多少なりとありながらも、結局キリシマが自分の父親となると……
やはりライムにとっては重大問題であり、複雑な心境ではあった。
「確かに俺のペアじゃないってことは、よかったけど……父親が解放軍のトップだなんて……それじゃ同じだ! 喜べないよ!!」
何やらオオヤマの証言により、大事へと発展してしまっている……
オオヤマは自分がいけないことをしてしまったような気がして、居た堪らない気持ちでいっぱいだった。
「なんだか難しい話をしてるけど……悪いことを教えてしまったかな? 知らない方がよかった話だったかね……」
貴重な情報を教えてくれたオオヤマを、完全に置いてけぼりにさせてしまっていた……
慌ててナヴィはフォローを入れる。
「いや、そんなことはないよ! あなたが教えてくれなかったら、僕達はずっと勘違いをしたままだった……むしろ感謝をしているところです!」
ナヴィが驚くべき点は
『キリシマがライムの父親』
それだけではない。
聞き逃すわけにはいかない、重要な点がもうひとつある。
「それとオオヤマサさん。もうひとつ気になることがあって……キリシマ、ライムの父親のことなんだけども……
キリシマがとても権威のある、時の研究者だったってのは本当の話なのかい?」
「あぁ。もちろん本当だよ! キリシマ博士はまさに天才だ!
“フューチャープロジェクト”の責任者であり
“未来転送装置”を完成させた、第一人者でもあるんだ!! 私の尊敬する、とてもすごい人なんだよ!!」
なんという偶然……いや、もはやこれは奇跡と呼べるだろう。
ナヴィは旅立つにあたって、3人の人物を探しに時の塔を出ていた。
まず一人目が先代、時の支配者が見た予知夢にあった、救世主と呼ばれる人物
次に、島の脅威となっている、解放軍トップのキリシマ
そして、異界人大量発生の原因となっている、未来へ行ける装置の開発者
この3人だ。
厳密にはペアを含めれば3人ではないが、そのうちの2人がまさかの同一人物だったのだ。
解放軍トップのキリシマは、装置の開発者でもある。
ナヴィもこの結末は予想だにせず、今までの考えはすべて覆される形となってしまった………
だが、これも不幸中の幸いとも言えるかもしれない。
この広い島の中での人探しが、どれだけ大変なことか……
ターゲットはキリシマ一人に絞られたのだ。
「まさかあのキリシマが装置の開発者だとは……そんなの結び付きもしなかったよ……」
次々と新事実が明かされるも、それがすべてキリシマに罪は被っていく……
ライムの顔はどんどん暗くなっていった。
(俺の父親が……未来へ行く装置を作った張本人? 嘘だろ……)
顔面蒼白のライムを心配し、見かねたミサキが声をかける。
「大丈夫? ライム……随分と顔色が悪いけど……」
「ちょっと立て続けに色々なことが起きすぎて、気持ちの整理ができてないかな……」
ライムの気持ちをナヴィは察するも、その当人の辛さは計り知れないものがあるだろう。
(ライム……辛いよね……自分の父が、異界人大量発生の元凶……
解放軍のことだけでなく、まさかその事件まで関係があったなんて……)
キリシマと同じ未来の研究をしていたオオヤマ
ナヴィにはオオヤマに聞きたいことが山ほどあった。
「オオヤマさん。転送装置が暴発を起こし、多くの人がこの島へとやってきてしまったのだと思うんだけど……
その時の状況のこと、覚えていますか? 詳しく知りたいんだ!」
「あぁ、断片的ではあるが覚えているよ」
オオヤマは当時の事を思い出し、顔をしかめながらも話してくれた。
「私達のプロジェクトは順調に進んでいた。天才キリシマ博士のおかげもあって、私達は未来を視ることを可能としたんだ」
「未来を視る……?」
「あぁ、映像機器を未来に転送させることで、そこから映される映像で未来を視ることに成功したんだ。
人体実験をいきなり行うには危険が伴う……まずは映像だけでもとね。
行く末は、人や生き物も未来へ行けるようにするつもりだったよ」
(そこまで開発は進んでいたのか……まさに天才だ。キリシマは……)
キリシマの博士としての腕に、ナヴィが驚愕する。
オオヤマは話を続けた。
「まだまだ装置は開発段階の途中でね。未来へ転送させるのも簡単なことではないんだ。
一度装置を使用した後は、かなりの間隔をあけなければならない仕組みになっている。
しかし、“ある未来”を視た博士は……
何を思ったか、まだ使用したばかりの装置を、強引に起動させたんだ!!」
「強引に起動……それで装置は不具合を起こしてしまったわけだね! でも、その“ある未来”って言うのは……?」
「さぁ……それが何なのか、私にも分からないんだ……博士はずっと未来の映像を、たった一人で視ていた。
そのため、そこで博士がどんな未来を視たのかは誰も知らない……
博士も連続で装置を使用する危険性は、十分に分かっていたはずなのに……
それにも関わらず、博士は装置を無理矢理使い、ついには装置は制御不能な動作を引き起こし、暴走してしまった!!」
「その暴走により、数多くの“時空の歪み”が発生し、オオヤマさんやキリシマ……ライムやミサキ、他の者達へと被害が広まってしまった!!」
大まかな事態の流れは分かった。
だが、またひとつ大きな謎が新たに生まれる。
キリシマ博士が視た“ある未来”
果たしてキリシマは、一体何を視たというのか……?
第63話 “R.KIRISIMA” 完




