第6話「過去、現在、そして無数の未来②」
ライムがこの島に来ることになった、ある原因。
どうやらその原因を、ライムは完全に忘れてしまっているようだ。
ナヴィがその時の状況を説明する。
「話せば少しは思い出すかな? 君は突如現れた “時空の歪み” に吸い込まれ、ここへと飛ばされてきたんだ。
時空の歪みとは、黒い空間のようなものだよ!」
ナヴィに言われて、ようやくライムは思い出す。
「あっ、そうだ! あの変な黒い空間!!
そこに吸い込まれて、気づいたらこの島にたどり着いていたんだ。言われるまですっかり忘れてた」
「思い出したか! その時空の歪みに吸い込まれた君はね……
“未来”へと飛ばされたんだよ」
「未来!? てことは、この今いる世界が未来ってこと……?」
ライムは今一度辺りを確かめるようにして、きょろきょろと見渡した。
けれども、とてもこんなのどかな島が、未来の世界とは到底思えない……ナヴィが即座に、訂正を入れる。
「いや、そうではないんだ。時というのはね、大きく3つに分類される。
“過去” “今(現在)” “未来“
その3つに分けることができるんだ。
だが、先程言ったように、この島は君がいた世界とは全くの別の世界……異世界だ!
そのため、君のいた世界の未来と、この島はなんら関係性はもたない!!」
「どうして……だって俺は未来に飛ばされたんだろ?
なのに、元の世界とは全く別の世界にいるって、そんなのおかしくないか? 意味が分からないよ!!」
確かにこれでは、ライムの方が筋は通ってるかもしれない。
しかし、その理由もナヴィはきちんと説明する。
「そうだね。一見おかしなことを言ってるようだけど、その理由もちゃんとあるんだ!
君は間違いなく、一度は未来へと飛ばされた。なのに君は、この島、異世界にいる……
それはある“時のルール”に引っ掛かってしまったからなんだよ!
『生命ある者は、同じ時に、同時に存在してはならない』
このルールにね!!
未来に飛ばされた君は、未来で生きる君と同じ“時”に同時に存在してしまった……
だから未来に飛ばされた君と、未来で生きていた君。
その二人がルールに引っ掛かかり、元の世界には存在できなくなってしまったんだ。
行き場を失った二人の君は、別世界の、この異世界へと飛ばされてしまったのだよ!」
「ふ、二人!? 俺だけじゃなくて……未来の俺もこの世界に来てるっていうのか?」
「そう! この世界に君という存在は“二人”いる!
二人存在してはならないのがルール。だからどちらかが消滅して、一人になったとき……
それができたのなら、もう片方の君は元いた世界に戻ることができるだろう!」
ライムには嫌な予感がしていた。
「消滅……それってつまり……」
ライムが一度躊躇った言葉を──ナヴィは無情にも淡々と告げる。
「消滅って言うのは……どちらか一方が“死”を迎えるということ!!
仮にどちらかが死に、片方が元の世界に戻ることとなったなら……
君が時空の歪みに飲み込まれる前の、あの“時”に戻ることができるんだ!」
「!!! もう一人の自分の死……自分だから余計に気が引けるけど……
未来の自分を見つけて、お互い話し合うことができれば、なんとかなるような気もするな」
「甘く考えているね。君が想像してるよりも、この世界は広い。
この世界には、ここの島以外何も存在しない。他はすべて海で広がっている。
しかし、この島の広さは、君がいた世界と同等くらいの広さを持っているんだ」
「そんなに!! そんな中から、もう一人の自分を探さなきゃいけないのか……」
ライムの想像の域を軽く越えていた。
この島がそこまで莫大に広いとは、思ってもみなかった。
ナヴィはこの島での、人探しの難しさを例えて説明する。
「君が元いた世界で、世界中を使った鬼ごっこをしているようなものだよ。
君の世界のように、この島では国境やパスポートも何も必要ない……
そう言えば、それがいかに難しいことか分かるだろう?」
(そんなの……見つかりっこないじゃないか……)
ライムの希望は、いとも簡単に打ち砕かれてしまった。