第59話「戯言①」
負けを認めたミツルギは、ライム達の前から立ち去る。
そのミツルギをナヴィは呼び止め、驚愕の一言を放つ。
「ミツルギ……おまえも僕達といっしょに来ないか!?」
まさかのナヴィの勧誘に、ライムとミサキに衝撃が走った。
「ちょ、ちょっと何言ってるんだよ! ナヴィ!!」
「そうよ! 変な冗談はやめてよね」
ナヴィは冗談のつもりはない。
真剣にミツルギを仲間に誘っている。
「いや、冗談なんかじゃないよ。ミツルギはキリシマを追っている……僕達と目的はいっしょじゃないか?」
ミツルギは苦笑いをしながら拒絶した。
「おいおい、勘弁してくれよ……俺は人とつるむのが苦手でな…それに……
そっちにはキリシマのペアと名乗るやつがいるんだぜ? そんなやつといっしょにいられるかよ!
まぁ第一、キリシマのペアってのも、俺は信じちゃいねぇが……」
改めて冷静になった今、ライムは再びミツルギに問いただす。
「そうだ。その俺がキリシマのペアじゃないって話……それ本当なのか?」
「知らねぇよ! 俺がそんなの分かるわけねぇだろ!! まぁ気にすんな。俺の戯言だ。
何の根拠もありゃしねぇ。なんとなくそう感じただけだよ」
曖昧なミツルギの発言に、ライムの頭は余計に混乱していた。
ポカンとした顔をしていたライムに向けて、ミツルギは言う。
「万が一、おまえがキリシマのペアだとしたら……
俺が今ここでおまえを殺したら、キリシマは消えちまうんだよな。よくよく考えたら、それじゃだめだ。
恨みがあるのはおまえじゃなくてキリシマだ! あいつを殺さなきゃ気が晴れねぇ!
せいぜい俺がキリシマを殺すその時まで、生き延びろよ! ニセキリシマ!!」
「ニセキリシマって……」
負けたはずのミツルギなのに、なぜか偉そうな上から目線だ。
散々捨て台詞を吐いて、ミツルギはライム達の前から姿を消した。
唐突なナヴィの勧誘も不発に終わってしまった。
ミサキもさすがに、まさかのナヴィの行動にはかなり驚かされたようだ。
「それにしてもびっくりしちゃったよ。ナヴィちゃん! あのミツルギを仲間に誘うなんてさ!
改心したと思ったのに、結局襲ってきたり……そんな危険なやつなのよ!?」
「確かにそんな一面はあったけど……僕には、そこまでミツルギは悪いやつではないような気がしてさ……
キリシマや解放軍を相手にするには、少しでも戦力が欲しくて、ごめんごめん!」
ナヴィとミサキが言い合うも、この時のライムには、二人の会話など一切耳に入ってはいなかった。
ライムには、ミツルギの戯言
『おまえは本当にキリシマか?』
この言葉が重くのし掛かり、いつまでも消えず耳に残っていた。
何の根拠もないミツルギの一言が、やけにライムの心に響いた。
カコイマミライ
~時を刻まない島~
第59話
“戯言”
ライム達にようやく安息の時が訪れる。
思い返せば、神獣探しのために幽霊屋敷へと来たわけだが、散々な目にあった。
神獣・フェニックスとの激闘
そして元解放軍・ミツルギとの続けざまの戦い。
ライムは身も心もボロボロで、疲れきっていた。その辛さが、見た目からもナヴィに伝わる。
「随分やられたねライム…… 疲れがだいぶ顔に出てるけど、もう着てる服もぼろぼろだ」
ライムの上着はフェニックスに燃やされ、ミツルギに斬られて血だらけだ。
また、止血のために片方の袖はちぎれており、もう見るに耐えない汚さだった。
同じくミサキもケルベロスにやられ、かなり無惨な姿になっている。
「私もこれじゃ村の中をうろうろと歩けないわ……早いとこ着替えを調達しなきゃ!」




