第58話「一体化②」
ライムは神獣との一体化に成功した。
本人は気づいてないが、周りの目からはライムの姿がフェニックスと化して見えている。
念願の神獣との一体化だったが、まだうまく扱うことができない。
フラフラと空を飛び、今にも墜落してしまいそうなほどだった。
「これ、空を飛ぶだけでも、なかなか難しいな……コツがいるみたいだ!」
これでは、ライムがいつ地上に落ちてしまうか分からない……
ナヴィは今しかチャンスはないと悟り、すかさずアドバイスを送った。
「ライム。やるなら今のうちだよ! 空からフェニックスの力を使うんだ! 火の球を放て!!」
ナヴィにそう言われて、ライムはフェニックスと戦った時の事を思い出した。
(火の球!! 確かにそんな技、フェニックスは使ってきてたな! やり方は分からないけど、見よう見真似で……)
空からの攻撃に備え、ミツルギは警戒している。
ライムはほとんど勘で動かしていたに等しいが、フェニックスは望み通りの動きをし、口からは巨大な火の球が放たれた。
「なんだ──この力は!! 避けきれない……ぶった斬るしかねぇ!!」
ライムの適当な攻撃にも関わらず、あまりにもそれは強力で、ミツルギの額から冷や汗が流れ落ちる。
巨大な火の球の回避は難しいと判断したミツルギは、神力・ソードで火の球を斬りつけにかかった。
ミツルギは集中力を高め、火の球めがけて刀を横に振って斬り裂く。
さすがは剣の達人、ミツルギといったところか。
火の球は見事真っ二つに割れ、ミツルギは直撃を免れた。
ミツルギの剣技に、ミサキは驚きを隠せない。
「なんてやつなの! あの大きな火の球を斬っちゃうなんて!!」
ライムの攻撃が効かず、ミサキは焦るが……
ミツルギはそれを上回るほどの、異常なまでの焦りを見せていた。
なぜならば──
あれだけ集中して、なんとか防いだ火の球の攻撃が、続けるようにして、もう一発放たれていたからだ。
「何!? もう一発だと!? こんな強力な攻撃を連続で!?」
さすがのミツルギも、先程の再現は不可能。
集中力はそう簡単には持続できない。
今度は回避できず、火の球がミツルギに直撃した。
爆発音が鳴り響き、土煙が舞う。
土煙に紛れ、ミツルギの姿は確認できないが、これで簡単に終わるミツルギではないはずだ。
次第に、ライムもフェニックスの扱いに慣れ始めてきていた。
ここぞとばかりに、ライムは間髪いれず攻めに徹する。
「だんだん使い方が分かってきたぜ! なぁ、ミツルギ!! どうせまだくたばっちゃいないんだろ!? 次の一撃で──終わりにしてやる!!」
段々と土煙が晴れ始め、黒焦げになったミツルギが、咳き込みながら姿を現す。
「ゴホッ、ゴホッ……くそっ、なんて攻撃だ! こうも空から攻められちゃ、手も足も出ねぇ……」
ミツルギが弱音を吐きながら、空を見上げると……
ライムの次なる攻撃が、そこには待ち構えていた。
フェニックスの体は、より一層強く燃え上がる。
急降下して、そのままミツルギに突進を計るつもりだ。
この技は、フェニックスがライムと戦った時に見せた技である。
「観念しろ! ミツルギ!! これに懲りて、もう悪事はやめるんだな!!
“フェニックス ダイブ”!!」
速度はぐんぐんと上がり、目にも止まらぬ速さで赤い彗星の如く、フェニックスはミツルギの体を貫いた。
「ぐわわぁぁっ!!!」
ミツルギは叫び声と共に、体は燃え上がり、吹き飛ばされるようにして地面へと叩きつけられた。
「やったか!? ライム!!」
強烈な攻撃の連続に、勝利を確信するナヴィ。
同様に手応えを感じていたライムだったが、すかさず地面に降り立ち、神獣の力を解く。
そして、走って倒れるミツルギへと近づいた。
ミツルギは寝たままで起き上がることはない。
ライムはミツルギの顔の目の前に銃口を向けた。
「これで俺の勝ちだ!! 認めるな? ミツルギ!!」
さすがにこれでは、ミツルギも負けを認めざるをえなかった。もはや動く気力すら残っていない。
「あぁ……俺の完敗だ。認めてやるよ。だから……
俺を殺せ!! その銃で俺を撃てよ!!」
ミツルギはライムを挑発する。
ミツルギの頭の中では『負け=死』を意味するのだろう。
しかし、ライムは撃つことはせず、銃をおろした。
「撃つわけないだろ……こんなもの、ただの脅しだ! ここで撃ってしまったら、殺しをするあんたやキリシマと同じ。俺はそんなやり方はしない!!」
ライムのやり方に納得がいかなかったのか、ミツルギは舌打ちする。
徐々に赤い目もおさまり、少し落ち着きを取り戻していた。
「チッ、そんなやり方が、今後通用すると思うなよ? くそっ、俺がまさか負けるとはな。俺はここで潔く引いてやるが……
他のやつは知らねぇぞ? 負けを認めたフリして、またおまえを襲うかもしれねぇ!」
ミツルギの言う通りだ。
相手に情けをかけたところで、相手がすんなり言うことを聞くとは限らない。
返り討ちにあうだけかもしれない……
だが、ライムはこのやり方を変えるつもりはない。
「かまうもんか! その時は、その時──だよ!」
「けっ! 生意気な! 死んだと思ったが、生きちまったじゃねぇか……ぐっ、体が痛てぇ……」
ミツルギは文句を垂れながらも、痛めた体をゆっくりと起こし、どこかへ向かって歩き始めた。
生き恥はさらすまいと、即刻ライム達の前から立ち去るつもりだ。
これでようやく強敵、ミツルギとの戦いは幕を閉じた。
神獣・フェニックスとの一体化に成功し、ライムは大逆転劇をおさめたのだ。
トドメを刺したのはもちろんライムであったが、何より勝因はミサキの存在が大きかっただろう。
ミサキの説教にも似た言葉に、ミツルギはえらく感銘を受けていた。
このミサキの言葉が、ミツルギに与えた影響は計り知れない。
キリシマへの憎しみこそは消えずとも、きっとミツルギは改心したはず……
そう考えたナヴィは、去り行くミツルギを呼び止めた。
「待つんだ! ミツルギ!!」
「あぁ……? なんだよ……」
ミツルギは足を止めた。
ナヴィは背中越しに、ミツルギに言った。
「ミツルギ……おまえも僕達といっしょに来ないか!?」
第58話 “一体化” 完




