第57話「一体化①」
キリシマのペアと名乗り続けるライム。
そこにミツルギは違和感を覚え、あるひとつの疑惑が生まれていた。その疑惑を打ち明かす。
「おまえ……本当にキリシマか……?」
「えっ……?」
「見た目だけじゃねぇ……思考回路、醸し出す雰囲気……何もかも違う。おまえは本当にキリシマのペアか?」
「そ、それは……」
カコイマミライ
~時を刻まない島~
第57話
“一体化”
ライムがキリシマのペアということは、正直今でもライム自身、信じることができていない。
いくら未来の別次元の自分と言われても、かけ離れすぎてピンと来ないでいる……
そう面と向かって改めて問われると、ライムにも自信がなくなってきていた。
「俺もまるで別人のように感じてるけど……未来の俺に何があったのか分からないし、俺も嘘なら嘘と思いたいけどさ……」
「その未来のってのが、やはり意味不明だが……どうもしっくりこないんだよな……」
ペアが未来から来てることを知らないミツルギには、意味が伝わらないのも当然の話。
しかし、直接キリシマと対峙したからこそ、分かることもあるのだろう。
ミツルギの発言が妙にライムの頭を巡り、この命をかけた戦いで、雑念が生じていた。
(いけないいけない! 余計なことを考えてる場合じゃない……今は戦いに集中しなきゃ! これも俺の動揺を誘う、ミツルギの作戦のひとつなのか?)
そろそろ雑談も終わり、切り替えねばならぬ時が来た。
ミツルギの目が、また鋭い目付きの赤い目へと変わる。
「おしゃべりもここまでだ……
本物か偽物かは定かではないが、おまえがキリシマと名乗る以上、黙っちゃおけねぇことに変わりはない……
ここで死んでもらうぞ!! キリシマ!!」
ライムは慌てて構え、自らに暗示をかけるように言い聞かせた。
(やっべ!! 集中しろ──俺!! 余計なことは考えるな!!)
ミツルギが再びケルベロスへと姿を変え、ライムに近づく。
距離を取ろうと、ライムはバックステップで下がったが……
一度失った集中力を取り戻すのには、もっと多くの“時”が必要だったようだ。
普段なら何てことなく気づくであろう、地面に転がった大きめの石の存在に気づかず──
ライムは石の上に着地し、ずるりと滑って転んで尻餅を着いた。
「あっ……!!」
一同は騒然とし、その場が凍りついた。
まるで“時”が止まったかのように、静まり返る……
こんなあっけない幕切れを迎えるとは……
滑稽なライムの姿に、ミツルギは口元を緩ませた。
「あまりに惨めだな……死にさらせ!! キリシマ!!!」
尻餅を着いたまま、どうすることもできないライムを、ミツルギは容赦なくケルベロスの力で仕留めにかかる。
この最悪の状況下でも、ミサキは希望を捨ててはいない。必死でライムにアドバイスを送った。
「ライム!!! 神獣の力を使って!! 神獣と“一体”となるの!! 神獣の気持ちになり、あなた自身が神獣となるのよ!!!」
ミサキのアドバイスを受けて、ライムも必死になって考えた。
ミツルギはもう目の前まで迫っている。
(俺自身が神獣……俺がフェニックスの気持ち、フェニックスになりきるのか!?
俺は飛べる……俺はフェニックス……ってか?
おいおい!! こんなんでいいのかよ!?)
もう恥ずかしがっている場合ではない。
ライムはミサキに言われた通り、大真面目にフェニックスへとなりきった。
(俺はフェニックスだ!! 俺はフェニックス……
俺は飛べる……空を──飛べる!!!)
半ばライムは諦め、目を瞑った。
もうライムは目を開けることはないだろう……
なぜなら自分は次の瞬間には、ケルベロスの餌食となり死を迎える……
そう思っていたからだ。
しかし……
すでにやられていてもおかしくないはずなのに、ライムに意識はある。それどころか、何の痛みすらもないのだ。
何が起きたかまるで分からずじまいのまま、ライムはゆっくりと目を開けた。
すると──
ライムの目に飛び込んできたのは、普段見えるはずのない、見晴らしの良い景色だった。
木々に隠れていたはずの、時の塔がなぜだかよく見える。
「えっ……何この景色? 随分と──高い?」
ナヴィの声が、遥か遠くから聞こえてくる。
ボリュームがやけに小さく、ライムは耳を澄ました。
「すごいじゃないか! ライム!! ライムが──フェニックスになってるよ!!」
ライムはナヴィの声のする “下” を見た。
「えっ、なにこれ……高っ!! 怖っ!! もしかして俺、今空飛んでる!?」
ナヴィとは距離でいえば10メートルは軽く越えている。
ライムの体は遥か上空へと舞っていたのだ。
ライムは今の状況に驚いたが、まず第一に浮かんできた感想は……
『怖い』
高所恐怖症のライムには、なかなか耐えづらい高さであった。
「超怖ぇぇ!! この高さ!! でも待てよ……この高さなら、近距離をメインとするミツルギは、俺に攻撃できないんじゃないか!?」
ミツルギには空飛ぶライムが、別の姿の形に見えていた。
その姿はまさに──
「火の鳥だと? あれがあいつの神獣だったのか!!」
真っ赤に燃える 火の鳥・フェニックス だ。




