第55話「場馴れ②」
すかさずナヴィがミサキのもとへと駆け寄り、安否を確認する。
自分を庇ってミサキは倒れてしまった……
ライムは己の不甲斐なさと共に、ミツルギに激怒していた。
「おまえの相手は俺だったはずだろ! ミツルギ!! 何てことをするんだ!!」
「何言ってやがる……あの女が俺の邪魔するからだろ!! それに──」
あくまでミツルギは正当防衛を主張する。
それに加え、完全にミサキはケルベロスの餌食となったかに思われたが、ミツルギにそこまでの手応えはないようだ。
「安心しろ! 死んじゃいねぇよ! だからそうピリつくなよ!
盾の力、やるじゃねぇか……こいつがなきゃ、体まるごと飲み込んでやったのにな」
ナヴィが倒れたミサキをミツルギから遠ざけようと、小さい体で一生懸命引っ張って動かしている。
ミサキは罪悪感にかられていた。
「ごめんね、ナヴィちゃん。無理させちゃって……」
「ううん、僕は平気だけど……ミサキこそ大丈夫なのかい? ケルベロスに食べられたときは、もうダメかと思ったよ……」
「えぇ、大丈夫よ! バリアを張ってたから、その分助かったみたい。私のバリアを砕くなんて……
なんて力なの! 神獣・ケルベロス!」
ミツルギは手を払う動きを見せて、ミサキを煙たがった。
「女はそこで黙って、すっこんでろ! キリシマが殺される瞬間を、しっかりと目に焼きつけておくんだな!!」
ミツルギの発言にミサキは腹をたて、せっかくナヴィが苦労して遠ざけたにも関わらず、立ち上がろうとするが──
「なんですって!! あなたにライムがやられるわけ……痛っ……!!」
少し動いただけで、激痛が走る。
いくらバリアで防いだといっても、致命傷を受けていることを忘れてはならない。
「じっとしてなきゃだめだよミサキ! 命があっただけでも、よかったくらいなんだから。あとはもうライムに任せよう!」
ミサキは悔しい気持ちを押し殺しながらも、固唾を飲んでライムを見守った。
(ごめん、ライム……あとはあなたに任せたわ。ライムも神獣の力を使えばきっと勝てるはず!)
ミサキが戦線離脱し、ライムは一人残されてしまった。
ミツルギが不適な笑みを見せる。
「これでもうおまえ一人だ。余計な邪魔は入らねぇ。逃げ場はないぞ、キリシマ!!」
ライムは完全に追い込まれた。
未だ神獣の使い方が分からず、頭を悩ませている。
「くそっ……神獣さえ出せれば……どうすりゃいいんだよ! どうやれば神獣が使えるんだよ!!」
ライムの嘆きを耳にしたミツルギは、呆れた顔をした。
「そりゃそうだろ。神獣とは“一体化”しなくちゃならねぇ……まずは一体とならなきゃ何も始まらねぇだろ?」
ミツルギはそっとナヴィの方を見た。
やはりまだナヴィのことを神獣だと勘違いしてるようだ。
「だから僕は神獣じゃないって言ってるだろ!!」
ナヴィの厳しいツッコミも、ミツルギは華麗にスルー。
「まっ、ウサギの神獣? と、一体になったからって、能力はたかがしれてそうだけどな!!」
ミツルギとナヴィのやり取りはさておき、ライムはその“一体化”という言葉に注目する。
(神獣と“一体化”……俺がフェニックスになりきるってことか? これがきっとキーに違いない……)
ライムは必死に探るが、当然ミツルギは待ってくれない。
ケルベロスの力で、一気に仕留めにかかる。
「何の神獣にせよ、使えないに越したことはない……今のうちに死んどけ!! キリシマ!!」
ライムの目には、黒い猛獣の姿が映し出された。
恐怖と共に、鋭いキバが迫り来る。
ライムは右手を出し、銃を構えた。
ガンを溜める準備はしていなかったが、なんとか抵抗しようと、咄嗟に体が反応していた。
(くっ……間に合うか!?)
しかし、ライムの想像以上にケルベロスは俊敏な動きを見せ、差し出した右手めがけて、ガブリと勢いよくケルベロスは噛みついた。
「うわっ!! いて、痛てぇーー!!」
ライムの右手から血がボタボタと垂れ落ちる。
噛まれた右手を引き抜こうと、ライムは力一杯引っ張った。
(ぐっ……このままじゃ、俺の右手は喰われちまう!! でも──だめだ!! 向こうの力が強すぎて、持ってかれる!!)
力勝負では勝ち目がないと悟り、このままではまずいと判断したライムは、手を引き抜くのを一旦やめる。
そこから噛まれたままの状態で、自分の左膝を噛みつくケルベロスの下顎めがけて、思いきりぶつけた。
「俺の手を──離せよ!!!」
そして膝蹴りを入れたあとに、更にライムはケルベロスを掴んで地面へと放り投げたのだ。
すると、噛みついてはずのケルベロスは力を失い……元のミツルギの姿へと戻った。




