第51話「悩みの根源③」
ライムの表情は暗い。
思えばミツルギが自分の過去を語り、ミサキが説教を垂れる中で、ライムは全くと言っていいほど会話に参加してくることはなかった。
ひたすら沈黙を貫き、静観していたのだ。
この状況……どこかで見た覚えがある……
ナヴィは似たような展開の流れに、いつぞやの記憶を呼び覚ます。
(何だろ、このデジャブ感は……ライム……もしや……)
ナヴィは嫌な予感がした。
その嫌な予感の正体を瞬時に見抜いたナヴィは、ライムの口封じを試みる。
「や、やめろ!! ライム!! もう話は全部綺麗にまとまったんだ。余計な事を言う必要はない!!」
ライムの顔は曇るばかり。
ナヴィに止められようと、ライムの意思は固い。
「いや、だめだ。ナヴィはそれでよくても、俺はよくない!!」
ナヴィの努力も虚しく、ライムはとうとうミツルギに告げた。
ミツルギが知るべき“真実”を……
「俺の名はキリシマだ。
キリシマ ライム
解放軍のトップ・キリシマのペアだ!!」
“キリシマ”の名を聞いて
一気にミツルギの顔つきが変わった。
先程の、ミサキの言葉を真摯に受け止めたミツルギが嘘のようだ……
またあの“赤い目”を見せ、鬼のような形相でライムを睨み付ける。
「なんだと……? てめぇが……適当な冗談じゃねぇだろうな? てめぇが本当にキリシマなら……
殺す!!!」
ライムに寒気が走った。
あまりのミツルギの殺気に物怖じするも、ライムは負けじと目を反らすことはしない。
「ほ、本当だ! そんな嘘をついても仕方ないだろう!!」
「それもそうだが……おまえがキリシマのペア? あまりにも見た目、年齢が違うがな」
疑心暗鬼のミツルギに、ライムはハッと思い出す。
(そ、そうか! 俺のペアのキリシマは、数十年は先の未来の姿だ!
ペアが未来の自分ってのは、ナヴィから話を聞いた俺達しか知らない……そしたらミツルギが信じられるわけはないのか?)
ミツルギが見たキリシマの姿は、今のライムとは似ても似つかない姿。
それもそのはず、二人にはおよそ20年の開きがある。
そのため、ライムとキリシマが同一人物だとは、ミツルギには到底思えるわけがないだろう。
ライムは時の流れの真相は語らずも、伝えられる範囲で説明した。
「あのキリシマは未来の自分なんだ。何はどうあれ、俺がキリシマのペアだというのは間違いない!!」
「未来? なんだそれは……まぁ理由は何だっていい……てめぇがキリシマと名乗る以上、ここで黙ってるわけにはいかねぇ!!」
ミツルギが敵意むき出しに、戦闘体勢をとった。
余計な一言にすぎないライムの言動に、ミサキも理解を示せないでいる。
「何であなたって人はバカ正直なの? ライムはライムって話したでしょ? ライムとキリシマは別なのよ!!」
ミサキと同感のナヴィも、ライムに文句を垂れた。
「そうだよ!! ライムが気にすることはないのに……ここは穏便に済ませるとこが……」
二人の意見も重々承知だが、この気持ちばかりは、張本人のライムにしか辛さは分からない。
それに加え、ライムにはずっと思い悩んでいたことがあったのだ。
「二人に俺の気持ちは分からないよ!! 俺……ずっと思ってたことがあるんだ……」
ライムの目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
かすれた声でライムは心の叫びを訴える。
「ミツルギやミサキだけじゃなく、俺自身もキリシマを許せない……
村人達は解放軍に怯え、キリシマを恨む人は、島中にたくさんいる……
だったら……だったらさ……」
泣くのを我慢していたライムだったが、耐えきれず、とうとう目からは大粒の涙が溢れ落ちた。
「俺は──もうこの世にいない方がいいんじゃないか?
そうすればキリシマは元の世界に戻り、この島から消える……それが一番平和なんじゃないかって……」
「ライム……」
ナヴィはライムを直視できなかった。
ライムを救世主とおだて、一人抱え込ませてしまっていた。
ライムは一人ずっと悩み、自分の生きる意味を探し続けていたのだ。
(これだったのか……ライムが悩み続けていた原因の種は……)
事あるごとに、ライムが悩む姿をナヴィは見て来た。
夜、皆が寝静まっても、一人どこか遠くを眺めている……
何度そんなライムの背中を見たことか。
ようやくそのライムの憂鬱の理由が、ナヴィに分かった。
(ごめん、ライム……僕が気づけなくて、ずっと一人にさせ続け、ごめんよ……ライム……)
第51話 “悩みの根源” 完




