第50話「悩みの根源②」
ライムは何となくではあるが、ミツルギの性格を見破った。
ミツルギが狂暴な性格になる時は、決まってあの“赤い目”だ。
どうやらミツルギは『キリシマ』の一言を耳にするだけで、完全に人が変わってしまう
──“多重人格”の持ち主なのかもしれない。
『キリシマ』の言葉がスイッチになり、あの“赤い目”を見せて、ミツルギは狂暴な姿へと変貌する。
カッと熱くなり、攻撃的になって、一切周りは見えなくなる……
犯罪者にはありがちな現象だろう。
ミツルギには、そんな心の脆さがあったのだ。
今は赤い目も落ち着き、正確な判断をミツルギはできるはず。
それにも関わらず、ミツルギは自分の非を認めず、完全にキリシマに罪をなすりつけていた。
「でも、俺は何も悪くねぇんだ!!それも……それも全部キリシマが悪いんだ!! そのせいで俺は……」
一向に過ちを認めないミツルギに対し、ミサキは強気に出る。
ミツルギは責任をキリシマに押し付けるようにして、言い逃れをしているに過ぎない。
ミサキはミツルギに厳しい現実を突き付けた。
「そうやって人のせいにしないの!! キリシマ、キリシマって……
悪いことしてるのはあなたなのよ!? キリシマのせいにすれば、正当化されるなんて思わないで!!」
「悪いのは俺? キリシマを崇拝するやつは、すべて悪と……そうじゃないのか?
俺が勝手にそう思い込んでいただけなのか? そ、そんなはずは……」
ミツルギはうなだれながらも、今まで自分が行ってきたことを振り返り始めた。
改めて冷静な目で見てみると、また違ったものが見えてくる…
確かにミサキの言う通りなのかもしれない……
考えれば考えるほど、自分に自信がなくなっていく……
『もしかして、自分は間違っていたのか…?』
徐々に、ミツルギはそう考えをシフトするようになっていた。
「あんたの言う通りなのか? キリシマのせいなんかじゃなく、俺が……俺が間違ってたのか…?」
元々はミツルギも多重人格とは言え、ここまでひどく弱気な一面を見せる人物ではない。
ミツルギ自身も本当は自分が悪いことに薄々勘づいていたのだ。
しかし、自分を正当化するために、今まで誤魔化し続けてきた。
この自信の無さは、その心の葛藤から生まれているのだろう。
それもすべて、ミサキの勇気ある言動により、終焉を迎えようとしている。
ミツルギの意識はついには変わり、自らの非を認める瞬間が訪れた。
「そうだったのかも──しれねぇな。あんたの言う通りだ……
俺は自分の都合のいいように、罪を擦り付けていただけだったのか……まさか若いねぇちゃんに説教されるとは……な……」
ナヴィはミサキの度胸に驚く。
凶悪な男と思われたミツルギを、こうも嗜めてしまうとは……
ナヴィはミツルギに持っていた“恐怖”のイメージが、多少ではあるが和らいでいた。
(すごいな、ミサキ。ミツルギを改心させた? 人殺しはもちろん悪いことだけど、自らの過ちをしっかり認めた……
案外ミツルギも根はいいやつなのかもしれない!)
改心したように見えたミツルギではあるが、どうしても譲れないものもある。
念をおすようにして、慌ててミサキに向けて言った。
「けど、けどよ!! キリシマ本人だけはどうしても俺は許せねぇ!
それだけは誰が何と言おうと、止められねぇからな!! それだけは分かってくれ!!」
渋々ミサキも納得するようにして、同意せざるをえない。
「そうね、その気持ちだけは理解できなくもないわ。その代わり、キリシマ以外に無駄な殺生は金輪際やめなさい!」
これで話はすべて丸くおさまった。
ようやく落ち着きを取り戻したミツルギは、ここで肝心の屋敷に来た用件をふと思い出す。
どうやらミツルギは今まで、完全に用件を忘れていたようだ。
それもそのはず、何よりミサキが与えた衝撃が大きすぎる……
もはや今のミツルギには、用件などどうでもよくさえなっていた。
「あれ? そういえば、何で俺ここに来たんだっけ?
あぁ、そうだ! 神獣だ!! 神獣を探しに来てたんだったな」
ミツルギは明らかに人間ではない、喋るウサギのナヴィを見て察する。
「あっ! もう神獣は先に取られちまったか……まぁいい、あんた達に譲るとしよう」
勘違いにナヴィはすぐ気づき、即座に訂正した。
「ち、違うぞ!! 僕は神獣じゃないぞ!! 絶対勘違いしてる……違う……違うぞ!!」
ナヴィも大変である。
神獣と言われたり、幽霊と間違えられたり、大忙しだ。
ミツルギは背を向け、用件は済んだといったところか。
屋敷の外へと出ようと歩き出した。
争い事は何もなしで、事なきを得た──
そう思われたが、今までずっと黙り続けていたライムがミツルギを呼び止める。
「待て、ミツルギ!!」
ミツルギは振り返り、ライムの顔を見た。
「──ん? なんだ?」




