第5話「過去、現在、そして無数の未来①」
ライムの目の前に現れた、人の言葉を話す謎の白いウサギは、ライムに自己紹介した。
「僕は時の支配者 “ナヴィ・ホワイト”
ナヴィで構わないよ! 救世主のキリシマ君!」
白いウサギ“ナヴィ”は、すでに困惑状態のライムに、更に追い討ちをかけるように、謎の言葉を連ねている。
ライムの頭の中は、もう爆発寸前だ。
「救世主? 俺が? しかも時の支配者って何なんだ……もうこれ以上分からない話をするのはやめてくれ!」
「大丈夫! すべてこの僕が説明しよう。君には話す義務がある。なにせ、君は救世主なんだから」
カコイマミライ
~時を刻まない島~
第5話
“過去、現在、そして無数の未来”
ライムは一度冷静になり、落ち着きを取り戻す。
この謎の人物、ナヴィには聞きたいことが山ほどあった。
「救世主ってのも気になるけど……まず、なんで俺の名前を知ってるんだ?」
「なんでって……そりゃずっとあの村での出来事をこっそり見てたからね!」
そうナヴィに言われて、ライムはすぐピンと来た。
「あーー!! もしかして!! さては、ダイキに石を投げたのはおまえだな!?」
「あぁ、それは僕だよ。石を投げて気を引いた僕の作戦さ!」
すんなりとナヴィは受け入れたどころか、得意気に語っている。
頭にきたライムは、それを知るや否や、ナヴィを両手で取っ捕まえようとした。
「やっぱり! おまえのせいで俺がどんな目にあったと思って……」
簡単に捕まるかと思ったが、ナヴィは見た目よりも身軽く、ぴょんと飛び跳ねてライムの手をすり抜ける。
「感謝してほしいくらいだよ。おかげで村人は襲われずに済んだ」
それを聞いたライムは、思わず手を止めた。
「──た、確かにそれはそうなんだけど」
怒りがおさまったライムに、ナヴィは顔をしかめ、険しい表情で語り始めた。
「どこから説明すればいいんだろう……話は複雑で難解だ。
まずは僕達が今いる“ここ”の話からしようか! この島……何か変わったことがあっただろう?」
ライムはここに来てからの不思議な出来事の数々を振り返る。
「そうだなぁ、いっぱいあったけど……“いかいじん”に、あの解放軍ってやつが使ってた“しんりき”」
「そうだね、それもあるね。それから?」
「それから……そうだ! 自分の年齢が分からなくなったんだ! 年齢だけじゃなくて、誕生日も!」
そうライムが言うと、ナヴィはライムに向かって、ビシッと指を差した。
「それだ!! なぜ思い出せなくなってしまったか……それを説明しよう! それはここが
“時を刻まない島”だからなんだよ」
ライムは首を傾げる。
「時を刻まない……?」
「うん。“ここ”は正確に言うと島というより、時を刻まない“世界”。君がいた世界とはまるで別の“異世界”なんだよ」
ライムには更に意味が分からなかったが、それでもひとつだけ、納得いった点が見つかる。
「この島が異世界? そうは見えないけど……それを信じるとすれば、そこから来た俺は、だから“異界人”になるわけか」
「そういうこと! 飲み込みが早いね!」
自分が異界人と呼ばれる理由は解明できたのだが、ライムは辺りを見渡して見ると明らかに太陽は動いており、日も暮れている。
ライムには、この島の時が止まっているようには思えなかった。
「ここは本当に時を刻まないのか? 太陽があって、日は沈むし、時は経過してるように見えるけど……」
「そうだね、厳密に言えば、この世界にも時はあるんだ。
朝もあれば夜もある。もちろんそれを重ねるごとに老いも訪れる」
「えっ……頭こんがらがってきた。じゃあなんで“時を刻まない”なんて言われてるんだ?」
「『時を刻まない島』はあくまで通称だからね。ここは君がいた“元の世界の”時が刻まれない場所なんだ。
どれだけここで長い間過ごして、老いたとしても、もし君が元の世界に戻ることになれば、この異世界に来た時の、当時の姿のまま戻ることができる……そういう話だよ!」
「俺のいた世界から見れば、時を刻まない場所ってことね! 大変だよ……話ついてくの」
“時を刻まない”という、誤解を招くような言い方にライムは困惑していたが、それでもかろうじて、理解はしているようだ。
しかし、ライムはその事よりも、ナヴィが話した別の事柄に注目していた。
「それと今、さらっと『元の世界に戻る』と言ってたけど……もしかして元の世界に帰ることができるのか!?」
「うん、方法はある。知りたいかい? 元いた世界に帰りたいかい?」
ライムは大きく頷いて答えた。
「当たり前だろ!! 帰りたいに決まってる! 俺が元いた世界に帰る方法を教えてくれ!!」
「分かった。僕がその方法を教えてあげてもいいが……そのまえに……
まずは覚えているかな? 君がこの世界に来ることになった原因を!!」
「えっ……あれっ? 俺、どうやってこの島にたどり着いたんだっけ? 」