第49話「悩みの根源①」
ライムはミツルギが放ったひとつの言葉にひっかかっていた。
「“また”ってことは……会ったことあるのか? あんたはキリシマに……」
「あぁ……あるよ! こっちは会いたくもなかったけどな! 忘れるわけがねぇ!! 俺はあいつの顔を!!」
カコイマミライ
~時を刻まない島~
第49話
“悩みの根源”
ライムはすでに幾人もの解放軍に出会ってきた。
しかし、皆トップのキリシマに会った者はいない。
ここに来て初めて、キリシマと接触を図ったことがある者と出くわす。
「あるのか!! どこでキリシマに!? 今あいつは一体どこにいる!?」
物凄い剣幕でキリシマの居場所をライムは尋ねる。
ライムが血相変えるのも無理はない。
キリシマはライムのペア。探し求めている、一番の人物だ。
ミツルギは少し引いた様子で、あの“赤い目”でライムを蔑んだようにして見た。
「あぁ? おまえもキリシマを探してんのか? 会ったのは随分まえの話だよ。
今いる場所は分かるわけねぇだろ……だから俺も解放軍に入って、あいつを探してるんだ!!」
ライムは我に返って冷静になり、自分が取り乱していたことに気が付く。
「あっ、そうか……
(何してたんだ……俺は……)
そ、それで……キリシマがあんたに何をしたっていうんだ…… なぜそんなに憎む?」
ミツルギの表情は暗くなった。
悔しそうに唇をかみ、拳を握って震わした。
「俺はこの島には謎の黒い歪みに飲み込まれてやってきたんだ……別の世界から来たみたいで、この島のルールに俺は戸惑った」
ここにもライム達と同様、異世界に飛ばされた犠牲者が一人。
未来に行ける装置の開発、暴発が多くの犠牲者を生み出している。
ミツルギは話を続けた。
「そんな何も知らない俺だったが、幸運なことに、とある村で心優しい人物と出会ったんだ。俺に島のルールを教えてくれて、色々と世話をしてくれる。
俺に優しくする義理も何もないのにな! 本当にいい人に巡り会えたと思った!!」
ライムとミサキにもミツルギの気持ちはよく分かる。
自分達と同じ境遇を歩んできたんだと知った。
だが、次のミツルギの一言で、全員に戦慄が走る。
「けどな……その人も俺同様の異界人だった。そこでたまたまその村に来たんだ……解放軍のキリシマが!!
そして、その恩人は……異界人という、ただそれだけの理由でキリシマに殺された!!」
「そ、そんな……」
ミサキは言葉が見つからなかった。
あんなに敵視していたミツルギを、同情さえしてしまっていた。
ミツルギの怒りはおさまらず、更に激しくなる。
「キリシマは解放と格好つけて、いとも簡単に俺の恩人を殺した……何が解放だ! あんなもの、ただの殺人だ!!」
ナヴィも険しい顔を浮かべながら、その時の状況を察する。
「君はキリシマに会ったと言ってるから……いたんだね? その人が殺された現場に君も。それはとても辛かったろうに……」
「あぁ、その通りだ。まだ神力すら扱えない俺には何の抵抗もできず、ただ見ているだけしかできなかった……
いっそのこと、そこで一緒に俺も死のうかとも考えたが……
それじゃあ、あの人が報われねぇ!! だから俺はその場から逃げて生き延びた! そしてキリシマに復讐を誓ったんだ!!」
一同は悲惨な過去を知り、ミツルギがキリシマを恨む理由が、これでよく分かった。
しかし、一度同情すらしたミサキにも、腑に落ちない点がある。
ミサキは厳しい表情で、説教するようにミツルギを叱った。
「確かに辛かったとは思うわ……私もキリシマを許せないし、あなたの気持ちは十分に分かる。でも、あなたのやってること……それって──
キリシマと全く同じじゃない!!」
「なに……?」
「あなたも解放軍を躊躇なく殺した……それはつまり、キリシマと同じ殺人犯なのよ!? なんでそれが分からないの!?」
ミサキの言葉がミツルギの心に刺さる。
ミツルギに衝撃が走った。
「俺が……キリシマと同じ……? そんなバカな……」
ミツルギが最も嫌うキリシマと、もはや同罪……
それを知らされたミツルギは突然うろたえ始めた。
あの“赤い目”は徐々に消え、火照りきった体の熱はスッと冷めていく。
「──ん? 突然どうした? ミツルギの様子がおかしい……?」
ミツルギの異変にライムが気づいた。
先程の威勢はどこにいったのか。弱々しい声でミツルギは言う。
「つい“キリシマ”の話になると、頭に血がのぼって自分を見失っちまって……気づいたら、とんでもないことに、いつもなってる……」
(あいつ……もしかして……)




