第48話「信頼関係②」
フェニックスの話を聞くと、この屋敷の主とフェニックスの間にあった、信頼関係がよく分かる。
フェニックスは、よほど主のことが気に入っていたのだろう。
「その点、貴様は解放軍とやらとは違う……貴様の力を求める理由を知り、我も考えが変わったのだ。
貴様のような男なら、力を貸してやってもいい──とな」
ようやくフェニックスが、ライムに勝ちを譲った意味が理解できた。
ライムにも笑顔が溢れる。
「それなら、遠慮なく受け取っちゃっていいのかな? 貸してくれ! フェニックスの力を! 俺はこの力で、解放軍を倒す!!」
「承知した。我の力──貴様に授けよう!!」
そう言うと、フェニックスは形を変え、光輝く球体と化した。
そして、ゆっくりとライムに近づき、ライムの体に溶け込むようにして、体内へと入っていく。
輝く光も完全に消え、ライムは神獣・フェニックスを手に入れた。
ミサキが手を叩いて祝福する。
「おめでとう! ライム。これが神獣との“一体化”よ!!」
「一体化……」
ライムには何の実感もなかったが、フェニックスの力が宿ったのは間違いない。
これで解放軍の神獣の力にも対抗できる。
「よし、これでばっちりだな!! 出ようか、屋敷の外へ」
ライム達は奥深くまで下りてきた階段を、今度は反対に上ることとなる。
「けっこう長いんだよな……この階段……」
「文句言わないの! さぁ、上って上って!」
足取り重いライムの背中を、小さな体で押すナヴィ。
ライムが疲れているのも無理はない。
フェニックスとの戦いで、心身ともぼろぼろになっていた。
「確かにね……文句言ったところで、何も変わらないんだけどさ。もうヘトヘトで……」
ライムはぐちぐち文句を言いながら、階段を一歩ずつゆっくりと上る。
ミサキは先程のフェニックスと主の関係性に、大層心を打たれたようだ。
「さっきの話、感動しちゃったな。神獣にも色々感情があるのね! フェニックスが主のために、仇をうつってことなのかしら!?」
この島には詳しいナヴィも、貴重な体験ができた。
「そうだね。神獣だって生きてるんだ。人の好き嫌いはもちろんある! フェニックスも解放軍が許せなかったんだろう」
疲れのせいか、ライムはネガティブとなっており、弱音を吐く。
「まぁ──仇うちと言っても、結局やるのは俺なんだけどね……」
「こら! ライム!! せっかくフェニックスが力貸してくれたっていうのに、何てこと言うんだ! 神獣に失礼だぞ!!」
ライムがナヴィに説教を受けたところで、ようやく地下から屋敷の室内へと帰ってきた。
「やっと戻れたな……」
ライム達は部屋の外へ出て、屋敷の出口に向かおうとした──
その時……“あの男”と、神獣を手にして帰還したライム達は出くわす。
「なんだ、おまえら……おまえらも、神獣を探しに来たのか?」
どこか聞き覚えのある声を耳にし、ライムはすぐさまその男の顔を見た。
「──お、おまえは……!!
“ミツルギ”!!!」
“あの男”とは、今や指名手配犯となった
“ミツルギ” だ。
解放軍と揉めて仲間を殺した、あの細身の男である。
なぜだか自分の名前を知るライムに、ミツルギは驚いた。
「なんでおまえ、俺の名を……」
横にいたミサキは、ミツルギをキッと睨みつける。
「あなた──もう有名人よ? お尋ね者としてね!」
ミツルギは自分が指名手配されていることを知らない。初耳だ。
「俺が!? チッ、逃げたあいつらの仕業だな。いらん事しやがって」
ミサキ同様に、ライムもミツルギに対し厳しい目線を送っている。
争い事の一部しか見てはいないが、仲間を簡単に手にかけるミツルギがライムは許せなかったのだ。
その動機を問いただす。
「なぜあんたは仲間を殺した!? 揉めてたみたいだけど……なにも殺す必要はなかったんじゃないか?」
ライム達がこっそり隠れて見ていたことは、ミツルギは知らない。
「まるで現場を見ていたかのような言い草だな……」
どこまでも正直者のライムは、すんなりとバラす。
「あぁ、悪いが物陰に隠れて見てたんだ。あんたが仲間を殺すとこをな」
「失敗したな。目撃者がいたとは……あいつら解放軍はキリシマを崇拝してやがったんだ!! それが許せなくてな! だからついカッとなってよう……」
ライムにはミツルギの思考に、理解を示すことができなかった。
「……? あんたも解放軍の一員なんだろ? だったらキリシマを崇拝していたことの、どこがおかしいんだ?」
ライムの疑問に対し、ミツルギは人が変わったように突然激怒した。
そして、目付きは徐々に鋭くなり、以前見せたような“赤い目”へと変貌を遂げる。
「許せないんだよ!! 俺はキリシマを!! あいつは絶対に許せない……キリシマは俺が必ず殺す!!」
キリシマのペアであるライムは、複雑な心境だった。
そのライムの気持ちは今はさておき、やはりこれでは辻褄があわない。
「許せないって……だからどうして!! それならなぜ解放軍なんかに……」
「解放軍に入れば、キリシマに会えると思ったからだ! 解放軍にいれば、いずれまたキリシマと接触する……
だから俺は大嫌いな、あの憎き解放軍に入ったんだ!!」
「“また”ってことは……会ったことあるのか? あんたはキリシマに……」
ミツルギは辛い過去の記憶を思い出し、苦い顔をしながら答えた。
「あぁ……あるよ! こっちは会いたくもなかったけどな! 忘れもしねぇ!! 俺はあいつ顔を!!」
第48話 “信頼関係” 完




