第40話「肉体の行方①」
次に向かう地、アーサイ村まであと僅かとしながらも、ライム達は野宿で夜を明かした。
寝る前に思い詰めていたライムであったが、朝になるとすっかり元通り。
そのライムの元気な姿を見て、ナヴィは安堵する。
三人は残り少ない食料を分け与え、朝食を済ませて出発した。
食料の管理をするナヴィは、食料が底を尽きそうになることに不安を感じているようだ。
「もう食料もあと少しになってきたね……次の村でしっかり調達しないと」
元々ヒザン村で調達する予定が狂ってしまった。
ミサキが嫌な想像を働かせ、追い討ちをかけるように更なる不安を煽る。
「私はアーサイ村には行ったことないんだけど……大丈夫かしら? ヒザン村みたいな悲しいことになってなければいいけれど……」
解放軍が島のあちこちに拡大し続けてる今、何が起きても不思議ではない。
ヒザン村のように崩壊してしまっていることも、可能性としては十分にありえるのだ。
「そ、そんな……そうなったら今度こそ食料が尽きてしまう……大変なことになるよ!」
ライムが嘆いていると、ナヴィが突然足を止めた。
そして、両手を広げ二人を制止する。
「ちょっとストップ! 静かにして」
「──ん? どうしたんだ? ナヴィ」
ライムがナヴィに尋ねるも、ナヴィは人差し指を立てて口に当て、しーっと黙らせる。
「静かに……何か話し声が聞こえるんだ。言い争いのような……」
ナヴィの大きな耳はピクピク動いている。
人より優れたその大きな耳は、どうやら危険を察知したようだ。
三人は身を潜めて茂みに隠れ、ゆっくりと声のする方へと近づいた。
すると、その先には正確な人数は定かではないが7、8人の男がたむろしている。
そして、その内の二人が向き合い、言い争いをしているのが分かる。
周りの男達は、その二人をはやしたて、喧嘩をふっかけているようだった。
「なんだてめぇ!? ほんとに俺とやろうってのか!?」
「やめておけ……俺をあまり怒らすなよ……」
怒りをあらわにし、騒ぐ大男と
片や冷静ではあるが、目は血走り“赤い目”をした細身の男
どうやらこの二人が揉めている。
「あとから入った新入りのくせに、俺に楯突きやがって!!」
大男が細身の男の胸ぐらを掴んだ。
細身の男は動じず、一言ぼそりと呟いた。
「おまえが“あいつ”の話をするからこうなる……後悔するなよ? 先に手を出したのはおまえの方だ」
細身の男が、そう言った直後……
細身の男から謎の“黒い生命体”が現れた。
あっという間にその謎の生命体は、大男を覆いつくし──次の瞬間には、大男の悲鳴と共に血しぶきが飛び散った。
「ぐわーーーっ!!! て、てめぇ何を!!!」
ナヴィがすぐさま、その謎の生命体の正体に気づく。
(これは……神獣!!)
カコイマミライ
~時を刻まない島~
第40話
“肉体の行方”
血しぶきが舞い、グロテスクな映像が目に飛び込んでくる。
危うくミサキが叫びそうになるも、ナヴィがミサキの口を両手でめいっぱい塞いだ。
そして男達に聞こえないように、小さな声で会話を交わす。
(ミサキ、静かに!! 恐らくきっとあいつらは解放軍だ! 神獣も扱ってる…… どんな力か分からない。ここは静観しよう)
突然の展開に、ライムも動揺している。
ライムは黙って頷き、息を潜めながら争いの行く末を見届けた。
そこからは惨いものだった……
謎の黒い生命体は、大男を食らいつくす。
返り血を顔に浴びた細身の男は、右腕で血を拭った。
「わりぃな。俺の“ケルベロス”が腹を空かしてたみたいでな」
周りにいた他の者達は、細身の男を危険人物と見なし、後ずさりして離れた。
「お、おまえ……何てことを…… 解放軍の裏切り者か!?」
細身の男はギロリと睨み付ける。
「あぁ? おまえもエサになりたいか? 第一、ふっかけてきたのはヤツの方からだろ!!
──まぁ見てろって……」
細身の男は、しばらく血だらけになった大男を眺めている。
すると、大男に不思議な現象が起き始めた。
徐々に体が透過し始め、大男が見えなくなっていくのである。
周りの者達は、目を点にしながら不思議な現象を見続けていた。
「な、なんだこれ……消えていく……?」
どんどん薄くなっていった大男は、ついには消滅し、すべてがなくなり、血の跡だけがそこに残った。
「──き、消えた……」
その不思議な現象を見届けた細身の男は、不敵な笑みをみせる。
「これだ……これがおまえらが望んでいる“解放”だ!!
解放されたんだよ。あいつは。元の世界にな!!」