第4話「時の支配者②」
ダイキは得意気に、己の神力を明かした。
「俺の“神力・ハンマー”
この力によって、俺の両腕は鋼鉄のようなハンマーと化す!! おまえが異界人と言うならば、神力が使えるはずだ! 見せてみろ。おまえの神力を。さぁ!!」
ダイキの自慢話により、ライムにも少し話が見えてきていた。
(なるほど。こいつのあの尋常なパワーにはそういう秘密があったのか!
ということは俺にもこいつのような、“神力”と呼ばれる不思議な力が眠ってるということなのか?)
ダイキの手は止まることなく、延々と攻撃を繰り広げている。
ライムは華麗にパンチを回避し続けるが、それも長くは持たない。徐々にライムの動きにも疲れが見え始めてきていた。
(ま、まずい……このままだとやられる)
どうすることもできず、祈る思いでライムを見守るトウゴ。
我慢して静観していたトウゴも、ライムの必死な姿に、見るに耐えられなくなってしまっていた。
「だめだ……俺もう見てられねぇよ」
こっそりライム達を自分の家から見ていた村人が、勘を働かせ、トウゴに声をかける。
「トウゴ! おまえ何をするつもりだ!? やめておけ! 今おまえが行けば、今度はおまえが危ないぞ!!」
そんなことはトウゴも百も承知。
村人の忠告を聞くこともなく、トウゴは飛び出し、ダイキの背後について叫んだ。
「もうやめろ!! 解放軍!! こいつはまだここの事をまだ何も知らないんだ。見逃してやってくれ!!」
突然の出来事に、ライムとダイキは呆気に取られている。
特にライムは、自分を庇うトウゴのまさかの行動に、一際驚いていた。
「トウゴさん……」
ダイキの手はピタリと止まって、トウゴの方を振り返る。
ダイキは力の持たぬ村人の反乱に、屈辱的な気分を味わっていた。
「あぁ? なんだと……別に俺は異界人以外には興味はねぇ……だがな、俺の神力があれば貴様を殺すなんて、いとも簡単なことなんだぞ!!」
トウゴに怒るダイキに、ライムは慌てふためいた。
(や、やばい! なんてことだ。トウゴさんに迷惑かからないように仕向けたのに、結果こんな形に……)
ダイキの矛先は完全に変わった。
トウゴに殺意を抱き、神力を使って全力で殺しにかかる。
『なんとかしなければ』とライムが思った瞬間……
ライムの後方から突然、10センチほどの石が飛んできた。
その石はライムを通り越し、ダイキの背中に見事直撃した。
一体誰が……
ライムは急いで後ろを振り返ったが、そこには誰もいない。
石が背中に当たったダイキは、度々振り返り、怒りをあらわにしてライムを睨んだ。
「貴様!! やはり死にたいらしいな!!!」
(お、俺じゃねぇーー!!)
石を投げた犯人がどこの誰だかは分からなかったが、逆に今はチャンスかもしれない。
トウゴに向けられた怒りは、またライムに向けられている。
(まぁ結果よかったと考えるか。でもまたこれじゃさっきの繰り返し……だったら……
もう逃げるしかねぇ!!)
ライムはすかさず村の外へと走り出す。林の中へと飛び込んでいった。
「逃がすか!! 追え、おまえ達!!」
ダイキと下っ端達は、逃げるライムを追いかける。
(林の中に入ればこっちのもんだ!!)
ライムは逃げ切る自信があった。
この村までは、海岸から林を抜けて歩いてきたわけだが、これと言った道はなく、かなり入り組んでいる。
この村を見つけたのも偶然にすぎない。茂みにうまく隠れれば、撒くことも可能だろう。
「くそーっ! 逃げ足の早いやつめ。探せ! この辺りにいるはずだ!!」
ライムは体勢を低くし、身を隠す。解放軍の足音が近くまで来ているのが分かる。
見つかるかと思われたが、どうやらツキはライムに回ってきたようだ。
「ダイキさん。探そうにも……暗くてはっきりと見えません!」
日は夕暮れを迎え、暗くなり始めていたのだ。
道に街灯すらないこの島。更に暗くなればもっと視界は悪くなるだろう。
「チッ、逃げられたか!? もっとよく探すんだ!! まだ遠くには行ってないはずだ!!」
結局ダイキ達は草木に潜むライムの姿を見つけることができず、諦めてまた村の方へと戻っていった。
(ふぅ~……なんとか逃げ切った。最初から逃げとけばよかったのか)
ライムが安心し、一息ついた時。
何者かにライムは話しかけられる。
「逃げ切れたみたいだね。まずはひと安心」
「誰だ!! 解放軍か!?」
まだ残りの下っ端達がいたのだろうか。
警戒しながらも、ライムは声のある方を見た。
「!!! う、ウサギ!!??」
すると、そこにいたのは解放軍でもなければ、それどころか、もはや人でもなかった。
身長は100センチほどだろうか。
少しぽっちゃりした体型で、タキシードを身に纏っている。
耳は大きいが、目は対照的でとても小さい。
そんな“白いウサギ”が二足歩行で立っていた。
「な、なんでウサギが立って喋ってるの? しかもちょっとオシャレしてるし」
「もっと驚くかと思ったけど、そこまででもないんだね」
「いや、これでも十分びっくりしてるんだけど……ウサギと話してるし。でもこの島…… 色々とおかしなことが起きすぎて、何がいても不思議じゃない気がする!」
普通なら信じられない光景なのだろう。
しかし、少しばかり“ここ”に慣れてきてしまったのかもしれない。
『喋るウサギがいてもおかしくはない』
妙に納得してしまっている自分がいた。
白いウサギは、少し怒った口調でライムに言った。
「さっきからウサギ、ウサギって失礼だな! 僕にはちゃんとした名前があるんだ! 名前で呼んでくれないか?
僕は時の支配者 “ナヴィ・ホワイト”
ナヴィで構わないよ! 救世主のキリシマ君!」
第4話 “時の支配者” 完